2026年06月21日

くろすけ図録



  • 「初音、そこに猫がおる──」 / 新左衛門が声をかけたとき、猫がふうっと唸った。気づいた初音が振り返ると、猫は雑草の群から飛び出してきて、背中を丸め、総身の毛を逆立ててまた唸った。/ 新左衛門は驚いた。猫は初音に唸っているのではない。初音のすぐ後ろ、縁側の奥の、雪見障子の陰に向かって凄んでいる。目を吊り上げ、牙を剥き、今にも飛びかかりそうでありながら、腰が引けているようにも見える。/ にわかに空を覆い尽くした雨雲のせいで、庭は薄暗い。明かりがないので、屋敷のなかはさらに暗い。物干し場のある縁側は南向きで、奥の座敷は夫婦の寝所だ。新左衛門が廊下に、初音が物干し場に下りているのだから、ほかに誰がいるわけもない。/ だが猫は、その暗がりに向かって唸りたてているのだ。/ 新左衛門は猫の威嚇の先を見た。初音は猫の方に寄りかけて、夫に気づいて同じように寝所を振り返った。/ そのとき。/ 寝所と縁側を仕切る障子の影から、へろりと闇がはみ出した。はみ出したとしか言い様がない。寝所の暗がりよりなお暗いものが、そこに隠れている。
    宮部 みゆき「あんじゅう」


  • □ 竦みの子猫 「ネコノミクス」
    3歳児並みの知能を持っているというネコたちは飼主を含めた人間をどのように認識しているのだろうか。図体の大きな仲間だと思っているのか、得体の知れない生き物だと警戒しているのか良く分からない。その人が乗っている自転車やバイク、高速で走るクルマに至っては理解不能ではないかと想像する(クルマが危険な 「走る凶器」 であるとネコが認識出来れば交通事故も人並みに減るのではないかと思う)。空前のネコブームが到来して久しい。「ネコノミクス」 は 「猫が生み出す巨額の経済波及効果」 を指す言葉だという。「2026年におけるネコノミクスの経済効果は約2兆9488億円に達する」 と試算する大学教授もいるらしい。しかし当事者のネコたちにとっては全く感知出来ない実態のないブームどころか、迷惑千万な話なのかもしれない。馬耳東風ならぬ猫耳東風?‥‥足早に駆け寄って来ては奇声を上げて騒ぎ立てる女子供たちに、猫生経験の少ない子猫は困惑して縮こまっているように見える。

    □ 夜ガザ、「NyAERA」(ニャエラ)笑え、ヤニ下がるよ
    2015年パレスチナ自治区ガザ地区北部のベイトハヌーンに現われたバンクシーの 「子猫」(Kitten)には誰もが目を瞠った。イスラエル軍の空爆で破壊された民家の残骸(トイレの壁面)に鉄屑の塊を毛糸玉のように見立てて無邪気に遊ぶ巨大な白猫が描かれていたのだ。バンクシーはネコを描いた理由について、《自分のウェブサイトに写真を掲載することでガザでの破壊行為にスポットを当てたかったが、ネットユーザーは子猫の写真しか見ないからね》と解説している。今では跡形もない民家の残骸の傍に真新しい1冊の雑誌が置かれていたことを知る人は少ない。2022年2月22日に現地を訪れた日本人が発見して撮った写真をSNSにアップしたということになっているが、本人が持って来たのではないかという憶測も否定出来ない。「NyAERA 2022」(AERAムック)の表紙。写真家・岩合光昭の撮った真ん丸い目を見開いている愛猫タマ(玉三郎)の写真には否応なく笑みが零れるのだが、夜になると消えた 「子猫」 を偲び、無常感に浸された涙も溢れ出て来るのだった。

    □ 脱化か?‥‥人喰いは眩るクマ、バイク跳びかかった
    奥深い森から下山して人里に現われたクマたち。それも農家や民家だけではなく、市街地にも出没するようになった。かつては人間を怖がっていたはずなのに、全く怖れず逆に人を襲うようになってしまった。人の住むところに美味しい食糧があると知って味を占めたのか、人間の方が怖がっている弱者だと学習したのか、全国各地に現われたクマが人を襲うというニュースが連日報道されような緊急事態に至った。ドアや冷蔵庫の扉を器用に開けるネコはいるけれど、「福島市街地で4人を襲ったクマが屋内に居座り、自ら施錠された窓の鍵を開け、スライドさせて脱走したことが報道され大きな話題」 になったことは記憶に新しい。進化・脱化したアーバン・ベアの脅威は凄まじい。その学習能力に加えて、知能も高そうだ。先日、突然車道に現われた人喰いクマが走るバイクに飛びかかった衝撃で自ら気を失うという衝突事故も起きた。そのショックで転倒した男性は両足を骨折する重傷を負ったという。

    □ 眩々クマが闇の通過か、宇都宮〜鎌倉、暗く‥‥
    進化・脱化したアーバン・ベアの脅威は凄まじい。福島市街地に続いて、栃木県宇都宮市内の住宅街やオリオン通りなどの中心繁華街でも目撃された。児童の安全確保のために、全ての市立小中学校が臨時休校となり、クマの出没から捕獲まで4日間の捕物騒動となった。東京都の多摩地域にも野生のツキノワグマが棲息しているという。食料を求めて自ら下山して来たのか、たまたま迷い込んだだけなのかは不明だが、今後日本各地のどこでクマが目撃されても不思議じゃない異常事態になってしまった。鎌倉市内にツキノワグマが棲息・出没したという記録は今のところないけれど、丹沢山地や箱根山などから闇夜に紛れて移動して来る可能性もゼロではない。宇都宮だけでなく、鎌倉市住民も疑心暗鬼に陥って、眠れない夜が続いているという。ご当地人気キャラクターの 「カマクマ」(Kamakuma)くんも、アーバン・ベアの出現に危機感を持っているかもしれません。

    □ 姪と引っ越した姉(あたし)、こっぴどい目
    姪と一緒に引っ越しすることになった姉(あたし)は今本当に後悔している。当初は妹と同居する予定だったが、突然彼女の海外留学が決まって、数年間は帰国出来ないことになってしまった。1人で住むには広過ぎる2LDKの間取り。家賃も1人で払わなければならないので、実家から出たがっていたという姪を誘って同居する運びになったのだ。これが大誤算の始まりだった。姪は炊事・掃除・洗濯などの家事は一切放棄して憚らない。同居前に約束していた家賃も折半しない。毎日昼前に起きて、大学に通っているのか定かでない。放課後も遊び呆けているのか、夜遅くまで帰って来ない。Z世代の今様娘らしく、Y2Kファッションを大胆に着こなし、メイクも煌びやかで媚びない。肌の露出が多い夏場も臆することなく、街中を颯爽と闊歩する。あたしの方が目立たない地味な日陰者なのかと錯覚するほどに落ち込む、ストレスで苛立たしい日々を送っている。

    □ 後片づけが頓挫し、三度か蹴ったかドア
    箪笥、ベッド、布団、冷蔵庫、食器棚、テーブル、椅子、書架、机、収納ボックスなど、大きくて重い家具を運び去った後の室内は殺風景どころか、本、雑誌、CD、日用品などで溢れ返ったカオス状態。「ゴミ屋敷」 と化していた。棄てても棄てても一向に減らない不可解なマジックは不要なものばかり出てくる 「打ち出の小槌」 みたいで、マジ笑えない。ストレスが限界に達して、半開きの玄関ドアを何度蹴ったか記憶にない。後片づけ作業を独りで長時間行なっていると気分も落ち込んで、陰陰滅滅とした状態に陥ってしまう。2人ならば後片づけも捗るのにと何度思ったことか。そんな窮地を救ってくれたのは意外にも遠い親戚ではなく、近くの他人だった。昨年の暮れ、内覧で知り合ったK**さんの母親と偶然にも隣室になった縁で、困窮しているのを見兼ねて、後片づけを数時間手伝ってくれたのだ。運び損ねたCD数百枚も二往復して運搬してくれた。お世話になったK**さんには感謝の言葉しかない。

    □ 「断捨離」 ムズいす、無理や、死んだ
    「断捨離」 はヨガ指導者・沖正弘が提唱したヨガの思想で、ヨガの行法、断行・捨行・離行に対応した 「断:新たに手に入りそうな不要なものを断つ、捨:家にずっとある不要なものを捨てる、離:ものへの執着から離れる」 という意味が込められている。1. 引き出しやクローゼットなど、対象の場所にあるものを一度すべて床に出し、全体量を把握する。2. 「必要」 「不要」 「保留」 の3つに仕分ける。3. ゴミに出す、売却する、譲るなどの方法で処分する。4. 迷ったものは専用の箱に入れて数ヶ月後に再度見直す。5. 残ったものを定位置に戻す‥‥というような手順が示されているけれど、言うは易く行うは難し。「最初に手放しやすいモノ」 として、衣類、取扱説明書、文房具、タオル、食器、賞味期限切れ食品、試供品、古い化粧品などが挙げられているものの、その雑多な物量に圧倒されて、頓挫しそうになった。可燃ゴミ・不燃ゴミ・古紙(新聞、雑誌、ダンボールなど)・プラスチック・粗大ゴミ(有料)の分別も悩ましい。トイレットペーパーは可燃ゴミなのに、その芯は資源ゴミなんだって?

    □ 多数なしで気づく。「ワイルドターキー」 辿る、曰くつきで品薄だ!
    引っ越しよりも、「ゴミ屋敷」 と化した旧居の後片づけの方が数倍も大変だった。転居してから約3週間後、やっと終わって空室になった部屋の鍵を受け渡す目処がついた日、同じようなカオス地獄で難儀していたM**さんの部屋に立ち寄って、4〜5時間ほど手伝った。彼女の息子さんも助っ人に来たというけれど、親族は当てにならないなぁと想わざるを得ない。切羽詰まって困窮した時、本当に頼りになるのは 「遠い親戚よりも、近くの他人」 だった。「ワイルドターキー13年」 の箱が玄関の靴箱の上に置いてあった。もし欲しければ上げるというので、それでなくても重いバックパックに詰めて持ち帰った。「ワイルドターキー13年」(デ ィスティラーズ ・リザーヴ)の歴史を辿ると、原酒不足などにより終売となった 「12年」 の後継ボトルとして日本市場限定で販売されていたが、2022年に 「12年」 が復活したことで、現在は生産終了している希少な長期熟成プレミアム・バーボンだった。実売価格は約7〜8千円で、3万円近いプレミア(暴利?)がついていたりする。後片づけ作業の対価としては充分過ぎる報酬ではないかと思って味わうケンタッキー・ストレート・バーボンは格別である。

    □ しこたま酔う湯、親愛 「あんじゅう」、夜また越し
    幽霊が出るという噂の空き家に隠居した加登新左衛門と妻の初音は紫陽花屋敷に棲み着いていた黒い草鞋のような物の怪〈くろすけ〉(著者談:「南京豆みたいにも見えるし、おはぎにも見えます」)と 「共生」 することになった。ところが 「人を恋いながら人のそばでは生きることのできぬ」〈くろすけ〉は人と親密に触れ合うことで逆に衰弱して行く宿命だった。ある夜、深酔いした新左衛門は湯舟に浸かりながら、どのように付き合うのが一番良いのだろうかと、〈くろすけ〉の行く末に思いを巡らした。親愛の情を込めて〈くろすけ〉を夜通し見守る。老朽化した紫陽花屋敷の建て壊しだけは避けたいと思案して、「武家の奥方の亡霊は、冥土に行き着けずに迷う魂になり、この屋敷を安住の地と定めている」 と実しやかに言含めて、紫陽花屋敷が打ち壊されないように家主を牽制した。愛らしい 「あんじゅう」(暗獣)が今後も 「安住」 して棲み続けられるようにという配慮からだった。

    □ 河童とミツキ、十色の呪い解き 「罪と罰」 か?
    ミツキが飼い猫のジョナスと一緒に奥深い森へ散策に出かけた。引きこもりの少女にしては珍しい外出だったが、ミツキには水面が時間帯によって十色に変化するという伝説の池を探しに行くという秘めた目的があったのだ。ジョナスの水先案内で漸く辿り着いた池は緑色に淡く発光してた。エメラルドのような神秘的な色合いに陶然としたミツキ。どれだけの時間が経ったのか分からない。その傍らで甲高く鳴くジョナスの声でミツキが我に返ると、不思議なことに穏やかに凪いでいた水面が噴水のように泡立ち、異形の生物が姿を現わした。三平池の主・河童の三平太だった。その昔、恋人を三平池に誘い出して溺死させた男の 「罪と罰」、水死した許嫁の呪いによって、池の中に囚われて河童となった男の命運、その水面が十色に変化するようになった謎を河童とミツキが解く物語が幕を開けた。

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    • 回文と本文はフィクションです。一部で実名も登場しますが、該当者を故意に誹謗・中傷するものではありません。純粋な「言葉遊び」として愉しんで下さい^^;

    • 「ネコノミクス」 「断捨離」 「ワイルドターキー」 などはGoogle AIを参照・引用しました

    • 「あんじゅう回文」 は 「あんじゅう」(三島屋変調百物語事続)へのオマージュです

    • 「いらいら熊‥‥以来」 を 「眩々クマ‥‥暗く」 回文に改訂しました(2026・6・22)
    • 引っ越しに纏わる回文しか作れない、「引っ越し回文脳」 になってしまいました。>﹏<。

     スニンクスなぞなぞ回文 #83

     2日とルー沸く○▷▽□☆□▽▷○くワールド・カップ

     回文作成:sknys

     ヒント:ソロモンの受難


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    NyAERA 2022

    NyAERA 2022

    • 特集:猫とあなたの物語
    • 出版社:朝日新聞出版
    • 発売日: 2022/02/16
    • メディア:ムック(AERA増刊)
    • 目次:愛される猫はかく語りき 川上洋平 [Alexandros] ×ソイ&ラテ / 石黒亜矢子×てんまる&とんいち / 川島如恵留(Travis Japan)「自分に素直なことが幸せへの近道」 / 時代を読む / 銀河鉄道と猫 漫画家 ますむらひろし / 現代のニャン像 ニャア / 作家 阿部智里 / 尾道で理想郷をめざす 猫のいる絵画教室 / 猫は30歳まで生きられる 宮崎徹さんがAIM医学研究所を設立 / A-30配合のフードが登場!/ ...


    あんじゅう 三島屋変調百物語事続

    あんじゅう 三島屋変調百物語事続

    • 著者:宮部 みゆき
    • 出版社:角川書店
    • 発売日:2013/06/21
    • メディア:文庫本
    • 目次:逃げ水 / 藪から千木 / 暗獣 / 吠える仏 / 解説 千街 昌之


    ワイルドターキー 13年

    ワイルドターキー 13年

    • ブランド名:WILD TURKEY Distiller's Reserve(樽熟成期間13年以上)
    • アルコール度数:45.5%
    • 容量:700ml
    • 原産国:アメリカ
    • 特徴:世界に名を馳せる親子ディスティラーによるケンタッキー・ストレート・バーボンの最高峰。チョコレートオレンジやトフィー、バニラを想わせる濃厚なコク。樽やスパイスのニュアンスもキレイに溶け込む


    ずっとお城で暮らしてる

    ずっとお城で暮らしてる

    • 著者:シャーリィ・ジャクスン(Shirley Jackson)/ 市田 泉(訳)
    • 出版社:東京創元社
    • 発売日:2007/08/25
    • メディア:文庫(創元推理文庫)
    • 内容:あたしはメアリ・キャサリン・ブラックウッド。ほかの家族が殺されたこの屋敷で、姉のコニーと暮らしている。悪意に満ちた外界に背を向け、空想が彩る閉じた世界で過ごす幸せな日々。しかし従兄チャールズの来訪が、美しく病んだ世界に大きな変化をもたらそうとしていた。“魔女”と呼ばれた女流作家が、超自然的要素を排し、少女の視線から人間心理に潜む悪意が引き起こす恐怖を描く代表作


    Nothing's About To Happen To Me

    Nothing's About To Happen To Me

    • Artist: Mitski
    • Label: Dead Oceans
    • Date: 2026/02/27
    • Media: Audio CD
    • Songs: In A Lake / Where's My Phone? / Cats / If I Leave / Dead Women / Instead Of Here / I'll Change For You / Rules / That White Cat / Charon's Obol / Lightning
    posted by sknys at 00:02| 東京 ☁| Comment(0) | p a l i n d r o m e | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする