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E・T・A・ホフマン『牡猫ムルの人生観』
685│アン│ノラ猫 ──巳年(2025)もよろしくにゃん
十二支に猫がいないのは残念だ。中国式の生肖に猫が含まれていないのは《子(ネズミ)に騙されて玉帝の宴に出席出来なくなったので自分の年を貰えなかった。それ故にネコはネズミを獲るようになった》 という説がある。仲間のネコ科大型動物の虎(寅年)と被るので、外れたのだろうか。タイやヴェトナムなどでは卯年を猫年とするらしい。アル・スチュワート(Al Stewart)の〈Year of the Cat〉(1976)は異国の地から着想を得たのかもしれない。巳年(蛇)というと、楳図かずおの 「へび少女」(1966)と小柳ルミ子の主演映画 「白蛇抄」(1983)と東京コミックショウ(ショパン猪狩)の 「レッドスネーク、カモン!!」(三蛇調教)しか思い浮かばないのだが、ふと猫頭・蛇手・蛸足(6本)の異形が脳裡を過った。ワニくんが「きみは ネコなの? ヘビなの? タコなの?」と訊くと、熱心に本を読んでいるギ ュスターヴくんは 「んー ネコかな」 と生返事。自画像を描いた本を下に向けて振ると、ギュスターヴくんの分身クローンたち(9匹)がポタポタ落ちて来るのだった。
686│ロン│飼い猫 ──アーカイヴ・キャット 1
長毛種のロンちゃんが虹の橋を渡ってから、早1年半余り。中央図書館裏の遊歩道を通る度に、ネコと触れ合った愉しい日々が思い出されて悲しくなってしまう。ペットロスならぬ、ノラロスだろうか。亡くなる1年前に、無知蒙昧なネコ・ヴォランティアがロンちゃんを連れ去って、TNR(Trap–neuter–return)をしようとしたことは未だに怒りを覚える。耳先カットされていないので、不妊手術を施されていないと思ったのか、推定20歳の老猫に不妊手術をしようとするなんて酷すぎる。見知らぬ人に拉致されて、病院へ連れて行かれて、どんなに怖かったかと思う。耳先カットされて戻って来たロンちゃんは心なしか、人を警戒するようになったとさえ感じられた。ネコとしては天寿を全うしたと思いたいが、その時の恐怖やストレスがロンちゃんの死期を早めたのではなかったかと思うのだ。無慈悲なTNRが徹底されると、近い将来には外ネコが1匹もいなくなってしまうだろう。
687│ウミ│飼い猫 ──3年ぶりの長寿猫
一緒に暮らしていた白黒猫キューちゃんが急死してから、早2年余り。女飼主もショックを隠せず、玄関前の定位置で微睡んでいることの多いウミちゃんの方が先に逝くのではないかと思っていたという。暫くウミちゃんの姿が見えなかったので、ついに天寿を全うしたのかと落胆していたが、先日玄関前の鉢植えの奥にいるのを見つけて安堵した。ウミちゃんはN**道沿いにいたオッドアイ(右目ブルー・左目イエロー)の美しい白猫だった。旧コンデジ(Cyber-shot DSC-P8)で撮ったことがあるので、少なくても15年前には成猫だったはずだ。なぜ隻眼になってしまったのか、その原因は分からない。元々ホームレスの外ネコらしかったが、この民家の女性が世話するようになって、終の住処を見つけたようだ。高齢猫向けのキャットフードを摂取していることも長寿に寄与しているのかもしれない。ウミちゃんが安住の棲家で長生きして欲しいと切に思う。
688│アガ│飼い猫 ──八幡神社の三毛
先日八幡神社を通りかかった時に何気なく左の方を見やると、1匹のネコと目が合った。頭部の黒、胸と前肢の白、マズルと胴体の茶色が綺麗に配分されている三毛だった。耳先カットをしていないし、鈴の付いた首輪をしているので、一目で飼い猫だと分かる。石階段を数段昇った神社の裏手の薄暗がり、こんなところにネコがいるとは思いもしない。危うく見逃すところだったが、ネコの気配を感じたわけではない。ネコとの間に鉄柵があるからか、近寄ってカメラを向けても逃げ出したりしない。近隣の民家で飼っているネコだろうか。初めて見た新顔だった。先夜も帰宅の途中、集合住宅の白いスロープの手摺りの上にいたネコと接近遭遇した。至近距離で数秒間、見つめ合う。目の前のネコも驚いたのではないか。その刹那、身を翻してスロープに降り立たって姿を消した。尻尾の長い小さなネコだった。
689│ベル│飼い猫 ──ドア越しの三毛
ヘアーショップK**の看板猫ベルちゃんを撮った。招き猫のように手招きしているわけではないけれど、下校中の小・中学生が興味を持ったり、女子高生がスマホで写真を撮ったりするので、客寄せにはなっているようだ。店内からガラスのドア越しに外界を眺めている三毛ネコは外へ出たいと思っているのだろうか。萩尾望都の 「びっくり箱」(1978)はレイ・ブラッドベリの原作(Jack-in-the-Box 1947)を少女マンガ化した短篇。少女ドーラは森の中の大きな家、「1階は台所と食堂と居間、2階3階は音楽室、遊戯室など、4階は最上層で学校があるところ」 で暮らしていた。森には父親を殺した恐ろしい怪物が潜んでいて、母親は娘が外へ出ることを禁じている。100室もあるという禁断のドアをバースデー・プレゼントとして、毎年1つずつ母親に開けてもらえるのだが、ある日ドーラは4階の学校へ行く途中で、鍵の架っていない禁断のドアを開けて、森の向こうに広がる世界を見てしまう。ドーラのように外界へ出たベルちゃんは一体何を思うのかしら?
690│クレ│飼い猫 ──窓越しの茶トラ
急な坂道を足早に降って、都電(東京さくらトラム)沿線に出る。その途中に建つ民家の出窓から外を眺めている茶トラがいた。窓ガラス越しなので安全だと思っているのか、そもそも人馴れした性格のネコなのかは分からないけれど、近寄ってカメラを構えても室内の奥へ逃げる気配がない。色褪せたラベンダー色のカーテンがネコの背後に架かっていて、赤茶色(茶トラ)とのコントラストも良い感じだ。意外にもピントが合っているので、素通しのように見えるかもしれないが、付着した結露の水滴や曇りが透明なガラスの介在を表わしている。この沿線には人懐っこい縞トラのサカちゃんや用心深い三毛猫のゴトちゃんなど、数匹のネコたちが暮らしているので、運が良ければ外に出て来た彼らと出会える可能性が高い。茶トラのクレちゃんは外へ出たことのない室内ネコなのかもしれないけれど。
691│ソフィ│飼い猫 ──消えたネコと家
昨年秋に都電(東京さくらトラム)N**線駅裏の民家の前にいたネコを撮った。この時は 「遠距離から撮って近寄ろうとすると、身を翻して門扉の向こうへ行ってしまった。ヒトが容易に入り込めない障害物が間にあると、近づいてもネコは逃げ去ったりはしない。ここが安全地帯であることを認識しているのだ。門扉の隙間から2枚目を撮った」 と記した。数カ月後にネコの様子を見に行って、自分の目を疑った。ネコどころか、門扉も中庭も民家も消えて真っ新な更地になっていたのだ。老朽化で新しく建て替えされるのだろうか、それとも売り払って引っ越してしまったのか(そもそも借家だったのか?)、それにしては取り壊されるのが早い。新築の家に住人と一緒にネコも帰って来るのだろうか。いずれにしても門扉の隙間から撮った2枚目は貴重なネコ写真になってしまった。今後この空地がどのように変わるかで、消えたネコと民家の真相が明らかになるだろう。
692│マーブル│飼い猫 ──アーカイヴ・キャット 2
日本政府は出生率が下がり続ける少子高齢化対策に悩まされているが、外ネコの減少も深刻な問題である。容赦ないTNRによって、外ネコの個体数は確実に減っている。事故や感染症のリスクを避けるために、ペットのネコを外に出さないで室内で飼うようになったことも影響しているようだ(英国の慈善団体 「インターナショナル・キャットケア」 の最高責任者を28年に渡って務めたクレア・ベサントは猫へのストレスを考慮して、必ずしも室内飼いを推奨していない)。初めて出合うネコとの愉しい機会が失われつつある。同じ地域に暮らしている顔馴染みのネコたちしか撮れない。というわけで〈ネコ・ログ〉も少猫化対策として、過去に撮ったことのある 「アーカイヴ・キャット」 に再登場してもらうことにした。Photo(macOS)の新機能(Memories)で、ネコたちのインデックスを重複して自動生成し続けるのはバグだと思うけれど、通知センター(Notification Center)に過去のネコ写真をランダム表示してくれるのは有難い。マーブルちゃんは2016年4月に撮った三毛猫です。
693│タキ&ニシ│ノラ猫 ──冬の眠り猫たち
都電(東京さくらトラム)沿線で暮らす仲良し茶トラ(兄弟姉妹?)を再び撮った。ただ容姿が似ているだけでなく、その動作や姿勢も似通っている。まるで合わせ鏡かドッペルゲンガーのように。眠いのか目を閉じていて、2匹は動き出す気配が一向にない。それでも離れていたはずなのに、いつ間にか前後に並ぶような格好で眠ってしまった。無限行列を想わせるような遠近法で、2匹の背後にも同じ茶トラが延々と連なっているかのような錯覚を想わせなくもない。この状態がいつまで続くのかと思っていたら、狭い路地に手押しのオートバイが入って来たのに驚いたネコたちは目を覚まして、どこかへ逃げ隠れてしまった。帰宅した別の女性は 「暫くすれば戻って来ますよ」 と慰めてくれたけれど。自転車の陰に潜んでいた1匹は都電の走行する騒音に驚いたのか、さらに奥の方へ逃げ去ってしまった。
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各記事のトップを飾ってくれたネコちゃん(9匹)のプロフィールを紹介する 「ネコ・カタログ」(cat-alog)の第77集です。サムネイルをクリックすると掲載したネコ写真に、右下のナンバー表の数字をクリックすると該当紹介文にジャンプ、ネコの見出しをクリックするとトップに戻ります。今までに690匹以上のネコちゃんを紹介して来ましたが、こんなにも多くのネコたちが棲息していたことに驚かされます。第77集の常連ネコはアンと一昨年に亡くなったロンちゃん。マーブルは過去に撮ったアーカイヴ・キャットです。新訳で読んだ『牡猫ムルの人生観』(東京創元社 2024)が面白かった。牡猫ムル(わが輩)が手近にあ った本の頁を破いて吸取紙や下敷きとして原稿に挿んだまま、編集人ホフマンが出版社に渡して印刷されたので、「ムルの自伝」(ムルのつづき) と 「楽長ヨハネス・クライスラーの伝記」(反故)とが混在する二重構造の物語(二重小説)になってしまったという設定も可笑しい。作者のE・T・A・ホフマン(1776-1822)は夏目漱石(1867-1916)の90年前に生まれています。この小説が 「吾輩」 の87年前に書かれていたとは驚きを禁じ得ません。
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- 記事タイトルの右に一覧リストのリンク・ボタン(黒猫アイコン)を付けました^^
- オリジナル写真の縦横比は2:3ですが、サムネイルは3:4にトリミングしました
- 「9分割ナンバー表」 の背景画像を白黒からカラー(写真の左上部分)に変更しました
- 「701匹ニャンちゃん大行進!」 のリンク・ボタンを「肉球アイコン」に変更しました
- 萩尾望都『ウは宇宙船のウ』(集英社 1978)の 「びっくり箱」 から引用しました

- 著者:E・T・A・ホフマン / 酒寄 進一(訳)
- 出版社:東京創元社
- 発売日:2024/11/29
- メディア:単行本
- 目次:編集人の序文 / 作者の序 / 諸言 / 生きている感触 青春の歳月 / 青年期の体験わが輩もまた理想郷にあり / 修行の歳月 偶然の気まぐれな戯れ / 高尚な教養を身につけて得た有益な成果 成人に達した者の成熟した歳月 / 編集人の跋文 / ホフマンの年譜 / 訳者あとがき

- Artist: Al Stewart
- Label: Esoteric
- Date: 2021/4/23
- Media: Audio CD(2CD)
- Songs: Lord Grenville / On the Border / Midas Shadow / Sand in Your Shoes / If It Doesn't Come Naturally, Leave It / Flying Sorcery / Broadway Hotel / One Stage Before / Year Of The Cat / Belsize Blues // Apple Cider Re-Constitution / The Dark And The Rolling Sea / One St...

- 著者:ヒグチユウコ
- 出版社:白泉社
- 発売日:2016/09/16
- メディア:単行本(MOEのえほん)
- 内容:「きみはネコなの? ヘビなの? タコなの?」 いたずら好きのギュスターヴくんがつむぎ出す摩訶不思議な世界!