2025年10月21日

バイリンガールズ



  • 彼らが丘の斜面を駆けたとき、猫が爪を引っ込めるように木苺は棘を引き寄せた。/ これは凄い光景だった。駆け抜けたのは五十匹の黒猫と五十匹の黄色い猫と、それに彼女で、彼女が人間なのか誰にもわからなかった。疑問を投げかけたのは、香辛料と猟鳥と猟獣、馬屋、和毛と草の混じりあった彼女の匂いだった。/ 自転車に跨って、彼女は断崖の間を抜け木々を横切り最悪の道を駆けた。自転車に乗ったことのない者には難しいと想われただろうが、彼女はそれに慣れていた。/ 彼女の名はヴァージニア・ファーで、たてがみのような長い髪は数メ ートル伸び、手は並はずれて大きく爪は汚れていた。しかしそれでも山の住民は彼女に敬意を払ったし、彼女もいつも彼らの風習に敬意を払った。そう、山の住民とは植物と動物と鳥たちで、さもなければ事情は違ったであろう。もちろん、彼女はときに猫の辱めに耐えなければならなかったが、彼女も同様に声を張り上げて猫語で応酬した。彼女、ヴァージニア・ファーは、人間が見捨てて久しい村に住んでいた。彼女の家は至るところ穴だらけで、穴に彼女は台所に生えた無花果の木を刺し通していた。
    レオノーラ・キャリントン「彼らが丘の斜面を駆けたとき」


  • ◎ A Danger To Ourselves(Rvng Intl. 2025)Lucrecia Dalt
  • ルクレシア・ダルト(Lucrecia Dalt)は南米コロンビア・ペレイラ生まれ。「メデジン大学で地質工学を専攻し、卒業後は地質技師として土壌を検査する研究所や地質学者のチームで」 エンジニアとして働いていたという。その傍ら独学で音楽活動を始め、バルセロナ、ベルリン在住を経て、アメリカ南西部に移住している。7thアルバムはDavid Sylvianとの共同プロデュース。ダルトがスペイン語で歌い、シルヴィ庵が英語で語る〈Cosa Rara〉。Camille Mandokとスペイン語でデュエットした〈Caes〉。Juana Molinaとコラボして英語で歌った〈The Common Reader〉など‥‥邪悪な魔女みたいに不気味で攻撃的なモノクロ・カヴァ(ポートレイトを撮ったのは写真家・藤井ユカ)はコロナ禍にリリースされたLingua Ignota(Kristin Hayter)の 「真珠のマスク」(Sinner Get Ready 2021)やZola Jesusの 「チョコまみれ」(Stridulum 2017)のカヴァ・ポートレイトを想起させる。全13曲・44分。見開き紙ジャケ仕様、国内盤(Plancha)は歌詞・対訳付き、ボーナス・トラック2曲収録。

  • ◎ Animaru(Bayonet 2025)Mei Semones
  • 芽衣シモネス(Mei Semones)は米ミシガン生まれ、NYブルックリンを拠点とするSSW。アルバムのタイトルが 「Animal」 のローマ字綴りになってるように、ドングリ(Donguri)、ダンゴムシ(Dangomushi)、ザリガニ(Zarigani)など、曲名や歌詞にも日本語が入り混じっている。祖母も勧めでピアノを習っていたが、11歳でギターに転向し、高校時代はジャズ・コンボのギタリストとしての経験を重ねて、バークリー音楽大学に進学した。3枚のEP《Tsukino》《Sukikirai》(2022)、《Kabutomushi》(2024)を在学中、卒業制作、卒業後にリリース。ボサノヴァ、サンバ、ジャズ(スキャット)、グランジ、マスロックの森を軽やかに駆け抜ける。森の仲間たちを描いたシュールな〈Donguri〉はレオノーラ・キャリントンの掌篇 「デビュタント」 の語り手、動物園のハイエナだけが唯一の友達である少女が思い浮かぶ」(Pitchfork)と評される。〈Rat With Wings〉をイメージしたカヴァ・イラスト、天使の白い翼が生えたネズミ(空飛び鼠?)の後ろ姿のイラストを描いたのは日本人の母親(Seiko Semones)。全10曲・38分。デジパック仕様、6つ折り歌詞・ポスター付き。

  • ◎ Saya(Dirty Hit 2025)Saya Gray
  • サヤ・グレイ(Saya Gray)はカナダ・トロント生まれの日系カナダ人ミュージシャン。10歳の時に母方の家族が静岡からカナダへ移住、ジャマイカのペンテコステ派教会の座付きバンドで音楽キャリアをスタート。19歳で英ロンドンに移住して、ツアー・ベーシストとして10年余り演奏していたという。2ndアルバムは小鳥のような囀りで蒐集した失恋ソング集。立体的に組み立てられた繊細なアッサンブラージュ・アートのような趣き。フィンガーピッキングとペダルスティール・ギターのサイケ・フォーク〈Shell (Of A Man)〉、ダビーなトリップホップの〈H.B.W〉、トラップビートのイントロ、6拍子のロックがラストでシューゲイズ〜ニューメタル風に激変する〈Exhaust The Topic〉、シンセアルペジオのインスト間奏曲〈Cats Cradle〉など、全10曲・39分。スリップケース仕様、歌詞は無記載。

  • ◎ Angie(Because 2025)spill tab
  • クレア・チチャ(Claire Chicha)はタイ・バンコク生まれの韓国系フランス人。両親はフランス系アルジェリア人のジャズ作曲家と韓国人ピアニスト兼ハープ奏者で、パリ、ロサンゼルス、バンコクで育ったという。ステージ・ネームのスピル・タブ(spill tab)は飲食店で誤って零してしまったドリンクなど、代金を請求出来ないものを記録した会計・在庫管理用ラベルのこと。英語と仏語で歌われるウィスパー・ヴォイスのベッドルーム・ポップは右手に魚を掲げたクレアの周りに10人の男女が雑居するアルバム・イラストのように、多彩な音楽が入り混じる。彼女はピアノ、ギター、ベース、シンセ、ドラムスなどを演奏している。808ドラムによるレゲエ調の〈Pink Lemonade〉、ピアノ・バラードをトランペットが盛り上げる〈Adore Me〉、ドラムンベース風の〈Assis〉、シンセ・ポップの〈Athlete〉、歪んだギターが暴れ回るニュー・ウェイヴの〈Angie〉など、全12曲・30分。歌詞ブックレット(16頁)付き、ジュエルケース仕様。

                        *
    • 紹介したバイリンガールズのアルバム(輸入・国内CD)は全て自腹で購入しました

    • 「ルクレシア・ダルト、インタヴュー」(ele-king)と国内盤の解説などを参照しました

    • レオノーラ・キャリントンはバイリンガル(英語と仏語)のシュルレアリストです

    • 推しのアルバム(年間ベスト・アルバム候補)にバッジを付けてみました^^;
                        *



    A Danger To Ourselves

    A Danger To Ourselves

    • Artist: Lucrecia Dalt
    • Label: Rvng Intl.
    • Date: 2025/09/05
    • Media: Audio CD
    • Songs: cosa rara / amorcito caradura / no death no danger / caes / agüita con sal / hasta el final / divina / acéphale / mala sangre / the common reader / stelliformia / el exceso según cs / covenstead blues

     Iris Silver Mist

    Iris Silver Mist

    • Artist: Jenny Hval
    • Label: 4AD
    • Date: 2025/05/02
    • Media: Audio CD
    • Songs: Lay down / To be a rose / I want to start at the beginning / All night long / Heiner Muller / You died / Spirit mist / I don't know what free is / The artist is absent / Huffing my arm / The gift / A ballad / I want the end to sound like this

    Animaru

    Animaru

    • Artist: Mei Semones
    • Label: Bayonet
    • Date: 2025/05/02
    • Media: Audio CD
    • Songs: Dumb Feeling / Dangomushi / Tora Moyo / I Can Do What I Want / Animaru / Donguri / Norwegian Shag / Rat With Wings / Zarigani / Sasayaku Sakebu


    Saya

    Saya

    • Artist: Saya Gray
    • Label: Dirty Hit
    • Date: 2025/02/21
    • Media: Audio CD
    • Songs: Thus Is Why (I Don't Spring Love) / Shell (Of a Man) / Line Back 22 / Puddle (of Me) / How Long Can You Keep Up a Lie? / Cats Cradle! / 10 Ways (To Lose a Crown) / H.B.W / Exhaust the Topic / Lie Down


    Angie

    Angie

    • Artist: spill tab
    • Label: Because
    • Date: 2025/05/16
    • Media: Audio CD / MP3
    • Songs: PINK LEMONADE / Adore Me / Assis / Athlete / by Design / Hold Me / Want Me / morning dew interlude / Doesn't That Scare You? / Angie / De Guerre / wet veneer
    posted by sknys at 00:17| 東京 ☀| Comment(0) | m u s i c | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする