2026年07月11日

ダブル U(ウー&ユー)



  • 何日経ったのか。あるいは何週間? あるいは何ヶ月? いや、そんな長期間、耐え得るはずはない。食糧は何もないのだ‥‥。というようなことを岩塩鉱をさまよっているとき、考えなかった。飢餓感をおぼえなくなっていたためだろう。/ シュテファンと私は、時折、小用を足すために立ち止まらねばならなかった。金の細管を使う姿を見られずにすむ、このときだけは、闇を好ましく思った。私が将来大宮殿(セラーリオ)の内廷(エンデルン)にあって権力を持つ白人宦官(アク・アーラル)となるべく施術されたことは、秘密ではない。シュテファンも知ってはいる。それでも見られたくはなかった。/ 「まさか小人はいないよな」 / シ ュテファンが冗談混じりに言った。岩塩が層をなす地下には、小人の一族がいる。シュテフ ァンは幼年期、乳母からその話を聞いたと言っていた。私もいつからともなく、誰からともなく、伝承を聞き知っていた。地下の小人たちが老爺のように萎びているのは、塩に生命を吸い取られるからだ。
    皆川 博子『U』


  • □ U(文藝春秋 2017)皆川 博子
  • 「U ウー」 という表題はドイツ帝国海軍の潜水艦Uボート(U-boat)と 「地下・地底」 を意味するドイツ語ウンターグルンド(Untergrund)の頭文字から採られている。同じイニシャルの2つの物語が『双頭のバビロン』(東京創元社 2012)の結合双子児ゲオルグとユリアンのように、交互に語られて行く。20世紀と17世紀が300年の時空を超えて交差する壮大な幻想譚(歴史ファンタジー・ミステリ)である。「U-boat」 は第一次大戦下、囮船Qシップの罠に嵌まって捕虜となった二等水兵ハンス・シャイデマン(俺)の物語。ハンスは英海軍に鹵獲されたU13を秘密保持のために、収容所から脱走してUボートを自沈させる作戦任務を志願する。ハンスと面識のある王立図書館司書のヨハン・フリートホフは本人であるかどうかを確認するためにU19に乗艦して、二等水兵ミヒャエル・ローレたちと共に、英ウェールズのオームズ・ヘッドへ、ハンスの救出に向かう。

    「Untergrund」は17世紀初頭のオスマン帝国に強制徴募(デウシルメ)されて、キリスト教からムスリム(イスラム教徒)に改宗させられた3人の少年、ヤーノシュ、シュテファン、ミハイの物語。ヤーノシュ・ファルカーシュ(私)は皇帝アフメト一世に選別されてエディルネ宮殿に送られ、イチュ・オウラン(内廷小姓)になる。シュテファン・ヘルクとミハイ ・イリエはアナトリアのトルコ人農家で働き、イェニチェリ(歩兵軍団)となった。オスマン帝国の衰亡に巻き込まれた少年兵のヤーノシュとシュテファンは戦闘中、岩塩鉱に転落する。地下の暗闇を彷徨する間に「不老不死」となった2人は300年の時空を生き永らえた後、沈み行くUボートの中に閉じ込められてしまうのだ。ヴァージニア・ウルフのSF小説『オーランドー』(Orlando 1928)のように(美少年オーランドーは性転換して女性なったけれど)。「Uボート」(U-boat)と 「ウンターグルンド」(Untergrund)という同じイニシャル 「U」 の2つの物語(ダブルU)が沈下して行くUボートの中で終息する。

                      *

  • 私は自分のアルバムを全て現実の場所と結びつけるのが好きなんです。何年も経ってから、それぞれ異なるアルバムの舞台を地図で眺めるのは素敵ですし、ファンが 「聖地巡礼」 する場所を作るのも良いなと思っています。《fishmonger》の時はニュージャージー州ロングポートにあるスマイリーフェイスが描かれた給水塔でした。《Wallsocket》の時は私たちがアナ ーバーで作成した馬蹄型の像でした。《U》については都会の生活、ホームシック、ラグジュアリーといったテーマがあったので、サンフランシスコを舞台にしたアルバムにするのが良い選択だ(it felt right)と感じました。私の生まれ育った街ですから。私はずっと 「ストーンタウン・ガレリア」(Stonestown Galleria)に通っていました。高校時代には特定のアルバムを聴きながら自宅からモールまで歩くという私なりの儀式があったんです。それはとても神聖な時間でした。だから、3rdアルバムの舞台をストーンタウン・ガレリアにしたいという思いに夢中になって行ったんです。新宿の 「ルミネエスト」 や渋谷の 「デニーズ」 を描いた翔平(Shohei)さんの緻密なイラストが主なインスピレーション源でした。
    エイプリル・ハーパー・グレイ(FADER 2026・3・25)


  • ◎ U(Mom+Pop 2026)underscores
  • アンダースコアーズ(underscores)は米カリフォルニア・サンフランシスコ生まれのSSW兼プロデューサー、エイプリル・ハーパー・グレイ(April Harper Grey)のステージ・ネーム(「underscores」 は 「下線を引く・強調する」 という意味の印刷・文書作成用語)。フィリピン系アメリカ人のトランスジェンダーである。米ミシガン州の架空都市ウォールソケットに住む3人の若い女性を題材にした2ndコンセプト・アルバム《Wallsocket》(2023)に4曲を追加収録した 「Director's Cut」(2024)がCD化された。ウォールソケットを象徴する巨大な 「蹄鉄モニュメント」 が描かれたオリジナル盤とはジャケ違いだが、リイシュー盤のカヴァ・アート(Jordan Sullivan)にもオレンジ色の夕焼けを背景にした 「U」 字型の巨大オブジェが左遠方に望める。グレイはアルバムのカヴァとキャラクターの全体を通して、「蹄鉄理論」(Horseshoe theory)の非政治的な解釈を象徴しようとしたという。全16曲・72分、見開き紙ジャケ仕様、4つ折り歌詞・ポスター付き。

    3rdアルバムのアルバム・カヴァには米サンフランシスコなどにある巨大ショッピング・モールをモチーフにして描いたという落合翔平のイラストが使われている。その中央にグレイが〈Music〉のMVで着けているヘッドフォンを模ったような 「U」 字型の白抜きシルエットがある(CD盤面にもプリントされているヘッドフォンも上下逆にすると 「U」 に見える?)。「私のiPhoneのためのスパイ映画音楽」 で、常に移動しているツアー・ミュージシャンとして、ショッピング・モール、空港、ホテル、スーパーマーケットで聴くのに適しているという。オートチューン・ヴォーカル、ダブステップのエレクトロニクス、高速ポップハウスへ目紛しく変化するビートは通行人の行き交う雑踏の中で聴くのが相応しいのかもしれない。12/8拍子の〈Tell Me (U Want It)〉、「Macの起動音が〈Eleanor Rigby〉を歌っているようなサウンドにしたかった」 という〈The Peace〉、撃鉄の音をサンプリングした〈Innuendo (I Get U)〉など、全9曲・34分。ジェルケース仕様、歌詞ブックレット(12頁)付き。フィジカル(LP・CD)にはフォトカード(トレカ1種)と 「I.O.U Card」 が封入されている。

                        *
    • 〈皆川少女館〉の『U』と〈下線を引く・強調する〉をカップリングした拡張版です

    • 『U』(2020)の表紙と《U》(2026)のカヴァの色合いが酷似しているのは偶然?

    • やおい系の皆川博子先生は 「美少年」 のチン〇〇切っちゃうのが好きだったりして^^;

    • 購入したアルバム《U》に封入されていたフォトカードはピンボケ写真でした。>﹏<。
                        *



    U

    U(ウー)

    • 著者:皆川 博子
    • 出版社:文藝春秋
    • 発売日: 2020/11/10
    • メディア:文庫(文春文庫)
    • 目次:I / II / III / IV / エピローグ / 皆川博子と作家三人の往復書簡(綾辻行人・須賀しのぶ・恩田陸)

    Wallsocket (Director's Cut)

    Wallsocket (Director's Cut)

    • Artist: underscores
    • Label: Mom+Pop
    • Date: 2026/04/10
    • Media: Audio CD
    • Songs: Cops and robbers / Locals (Girls like us) / Duhhhhhhhhhhhhhhhhh / You don’t even know who I am / Johnny johnny johnny / Shoot to kill, kill your darlings / Horror movie soundtrack / Old money bitch / Geez louise / Seventyseven dog years / Uncanny long arms / Good luck final girl / My guy (Corporate shuffle) / Northwest z...

    U

    U(ユー)

    • Artist: underscores
    • Label: Mom+Pop
    • Date: 2026/05/22
    • Media: Audio CD
    • Songs: Tell Me (U Want It) / Music / Hollywood Forever / The Peace / Innuendo (I Get U) / Lovefield / Do It / Bodyfeeling / Wish U Well
    posted by sknys at 00:04| 東京 ☁| Comment(0) | m u s i c | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする