2025年09月21日

日陰・苔・黴



  • 散歩しようかと、寝苦しいままに表へでて、二人連れ小便して、その上を赤と青の標識灯点滅させた日本機が西へ向う、「あれ特攻やで」 ふーんと意味わからぬながら節子うなずき、「 蛍みたいやな」 「そうやなあ」 そして、そや、蛍つかまえて蚊帳の中に入れたら、少し明るなるのとちゃうか、車胤を真似たわけではないが、手当たり次第につかまえて、蚊帳の中にはなつと、五つ六つゆらゆらと光が走り、蚊帳にとまって息づき、よしと、およそ百余り、とうていお互いの顔はみえないが、心がおちつき、そのゆるやかな動き追ううち、夢にひきこまれ、蛍の光の列は、やがて昭和十年十月の観艦式、六甲山の中腹に船の形をした大イルミネーションが飾られ、そこからながめる大阪港の聯合艦隊、航空母艦はまるで棒を浮かべたようで、戦艦の艦首には白い天幕が張られ、父は当時、巡洋艦摩耶にのりくみ、清太は必死にその艦影をさがしたが、摩耶特有の崖のように切り立った艦橋の艦は見当たらず、商大のブラスバンドか、切れ切れに軍艦マーチがひびく、守るも攻めるもくろがねの、浮かべる城ぞたのみなる、お父ちゃんどこで戦争してはんねんやろ、写真汗のしみだらけになってしもたけど。
    野坂 昭如「火垂るの墓」


  • □ 「古希なの!」 戯けた宴、遠野なぎこ
    2025年7月3日、遠野遠野なぎこさんが住む東京・豊島区のマンションに救急車と消防車が駆けつけた。「遠野さんと連絡がつかないことを不審に思ったヘルパーさんが管理会社に連絡を取ったところ」、衰弱している遠野なぎこさんが室内で発見されたという。郵便ポストは手紙などで溢れていた。幸い彼女は緊急搬送された病院で奇跡的に意識を取り戻して、九死に一生を得た。愛猫・愁くんの健康状態も良好だった。1月末に所属事務所との業務提携を解消してフリーランスとなったことを宣言し、鬱病と診断されたことや訪問看護を契約したことなどをSNSで報告していた。半年後、俳優業に復帰した‥‥2050年11月22日、古希を祝った誕生パーティは華やかだった。最近は老け込んで祖母の役が多くなってしまったと戯ける遠野さんの表情には若かりし頃の面影が宿っていた。

    □ 河馬乗る拿捕船、槍音と通りゃんせ 「火垂るの墓」
    寝苦しい夜、散歩に出た清太と節子が見上げると、赤と青の標識灯を点滅させた日本機が西へ向っていた。「あれ特攻やで。隊員は軍医にヒロポンを打たれて出撃したんや」 《ふーんと意味わからぬながら節子うなずき、「蛍みたいやな」 「そうやなあ」 そして、そや、蛍つかまえて蚊帳の中に入れたら、少し明るなるのとちゃうか、車胤を真似たわけではないが、手当たり次第につかまえて、蚊帳の中にはなつと、五つ六つゆらゆらと光が走り、蚊帳にとまって息づき、よしと、およそ百余り、とうていお互いの顔はみえないが、心がおちつき、そのゆるやかな動き追ううち、夢にひきこまれ》た。アフリカから絶滅危惧種の河馬を密輸しようとした船舶が拿捕された。海上保安庁の船艇と密航船との争いに巻き込まれた兄妹は密航者たちが投げる槍の風切り音を紛らわせようとして、「通りゃんせ」 を歌いながら船艇の甲板に身を伏せた。「どうやら未来へ飛んでしまったらしい」 と清太は夢の中で嘆息した。

    □ 気づく?‥‥パン切る魔利。グリマルキン、パクつき
    なぜ猫のくせに主人の行動や心中までを精密に分かるのかという疑問について、夏目漱石の 「吾輩」 は読心術を心得ていると語る。森茉莉の黒猫ジュリエットも 「千里眼の猫かと怪しむ人もあるかも知れないが、牟礼魔利は、その日その日の出来事、又彼女の心にあることは殆ど独り言で喋りちらす癖を持っている」 と話す。これは猫族の秘密なのだが、人語を解するだけでなく、喋ることも出来るのだ。しかし猫が突然話し出すと飼主が驚いて怖がるので、喋れないふりをしているだけだ。それだけではない、ポール・ギャリコの牝猫トマシーナが古代エジプトの女神バステトの化身だったように、 ジュリエットは伝説の猫王グリマルキンの生まれ替わりだった。グリマルキンは魔女の使い魔や、その化身と言い伝えられる 「固有の理性と言語能力を有するケット・シーとしての妖猫」(大久保ゆう)である。魔利が朝食の食パンをナイフで切って、小岩井バターを塗る。彼女が食べる前に、飼い猫が摘み食いしてしまったのを気づいているのかどうか、ジュリエット(グリマルキン)にも分からない。

    □ 頓馬天狗、スギ吹き、竦んでマント
    コメディアンの大村崑が扮する 「頓馬天狗」(1959-60)はTV時代劇コメディ。タイトルからも分かるように、大佛次郎の時代小説 「鞍馬天狗」(1924-65)のパロディになっている。「♪とんとんとんまの天狗さん‥‥」 という軽快な主題歌でも知られていた。「姓は尾呂内、名は南公」 と歌詞にあるように、スポンサー大塚製薬の 「おいしいとメガネが落ちるんですよ」 という炭酸飲料オロナミンCのCMでも人気を博した。鼻眼鏡(ずれ落ちたロイド眼鏡)というコミカルな風貌に反して、左手の 「片手抜刀」(太刀を鞘から抜かないで斬る)など、天下無敵の頓馬天狗にも意外な弱点があった。スギ花粉が飛ぶ春になると眼鏡だけでなく鼻水が垂れるのだ。そんな時は黄金バットや月光仮面のように、特製の透明マントを羽織って姿を隠すという秘技があったとか、なかったとかいうエピソードがSNSなどで実しやかに流布されているけれど、ファクト・チェックしたら、フェイクだった。

    □ 蝦夷地 「クルーエル・サマー」、ウーマ(UMA)猿、エール口添え
    記録的な酷暑の今夏、日本国内各地では人里に降りて来たクマが農作物を食い荒らし、人間を襲う事件が多発しているが、これも気象変動(地球温暖化)の影響なのか、先月未確認動物(UMA)モノスが北海道に出現したとして連日大騒ぎになっている。モノスはベネズエラで発見された未確認動物の一種。モノ・グランデ、ド・ロワの類人猿、ロイスの猿とも呼ばれている。モノスはスペイン語で 「猿」、モノ・グランテ(mono grande)は 「巨大な猿」、ド・ロワとロイスは1920年に発見したスイス人の地質学者フランソワ・ド・ロワ(François de Loys)の名前に由来するという(Wikipedia)。SNSに投稿された写真は類人猿のようにも大きなクモザルのようにも見えなくもない。熊本地震(2016)が起きた時、「動物園からライオンが逃げ出した」 というデマ情報がSNSで拡散されたのと同じ類いのフェイク画像ではないかと疑われている。モノスはジンジャー・エールが好きなことでも知られる。ドラえもんの 「どこでもドア」 のように 「夏への扉」 を開けて、蝦夷地に現われたのかもしれない。

    □ 澄まし顔、森ガール 「カンガルー狩りも冒します」
    ヴァージニア・ファーは森ガール。自転車に跨り、50匹の黒猫と50匹の黄色い猫を引き連れて丘の斜面を駆け降りた。断崖の間を抜け、木々を横切って、最悪の道を駆ける。立て髪のように長い髪は数メートルも伸び、手は並外れて大きく指は汚れていた。《山の住民は彼女に敬意を払ったし、彼女もいつも彼らの風習に敬意を払った。そう、山の住民とは植物と動物と鳥たちで、さもなければ事情は違ったであろう。もちろん、彼女はときに猫の辱めに耐えなければならなかったが、彼女も同様に声を張り上げて猫語で応酬した》‥‥彼女は自転車に乗って毎晩狩りに出た。しかし敬意を払っている山の獣たちも彼女に進んで殺戮されることなく、週に数日は迷い牧羊犬、時には羊肉、稀に子供を食べていた。「今夜の獲物はカンガルーだったのよ。好戦的な強敵だったが、猫たちの加勢もあって何とか仕留めることが出来たわ」 と澄まし顔で話し、私にルー・ステーキを振る舞ってくれた。

    □ 停滞、趨向、余燼‥‥世界が線状降水帯で
    今年(2025)の夏は35℃以上の猛暑どころか、40℃超えの酷暑による熱中症で多くの人たちが救急搬送された。線状降水帯によるゲリラ豪雨に見舞われた日本局地では河川の氾濫、家屋への浸水、断水、倒木、山・崖崩れなどの災害が起きた。9月4日午前3時に熱帯低気圧から台風へ急変した台風15号は5日未明に高知県に上陸、和歌山県に再上陸した後、紀伊半島を横切って房総半島に達した。11日午後、首都圏(東京都と神奈川県)でもゲリラ豪雨(記録的短時間大雨情報)が発生して、暗雲に雷が鳴り響いた。目黒区では1時間に134mmの雨量を観測。氾濫、冠水、浸水、埠頭のコンテナ倒壊による死亡事故、落雷による火災と停電。鉄道、新幹線や航空機などの運行も中断を余儀なくされた。この異常気象(気候変動)は日本国内だけに留まらない。地球が断末魔の悲鳴を上げているのではないか。

    □ 意外惨事・危険な暑さ・自殺・阿南・激甚災害
    酷暑の8月が終わり、9月になっても衰えることのない高温多湿の猛暑日が続いた。Fenneszの《Endless Summer》(Mego 2001)はノスタルジックでドリーミングな 「レフトフィールド・エレクトロニカ」 の傑作だったが、現実は過酷だった。蝉の声も勢いなく終焉し、藪蚊やゴキブリも少なく、虫の鳴き声だけが季節外れのように聞こえて来る。「危険な暑さ」 による熱中症だけでなく、国内各地で台風、竜巻、ゲリラ豪雨などの多くの激甚災害に見舞われた。いわゆる 「災害関連死」(自殺を含む)も少なくない。徳島県の南東部の阿南市では《熱中症の疑いで7月1日に徳島県内で2人(うち1人は阿南市)が死亡したのを受け、県は7月2日、緊急の危機管理会議を開き、県民に熱中症から命を守る行動を取るよう呼びかける 「熱中症危機事態宣言」 》を出した。8月30日、阿南市蒲生田では35.5°Cの猛暑日になった。

    □ 脱会派、石破おろしに 「意外だ、大概にしろ!」 叔母・爺は怒った
    「水月会」(石破派)の解散から1年‥‥「石破おろし」 の大合唱に屈して、退陣を余儀なくされた総理大臣。世論調査の内閣支持率は39%と徐々に上昇しているのに、身内の自民党議員たちからは衆院選、都議選、参院選の三連ちゃんで敗けた続けのだから責任をとって辞めるべきだと声高に批判されていた。裏金議員は責任をとって辞職したのか、薄汚いゾンビのように国会へ這い戻って来なかったか。兵庫県知事や伊藤市長など、居直って辞めない首長もいる。前倒し総裁選や衆院解散で分断するのを危惧しているようだが、ヒビ割れた古いコップの中の嵐にすぎない。たとえ自民党が2つに割れても国民は痛くも痒くもない。次期参院選で当選することだけを考えている議員たちの姑息な内紛に、長年自民党を支持していた叔母も祖父も怒り心頭に発している。《その気にさせながら党内融和の 「わな」 にはまって "らしさ" 失い、「春一番」 トランプ関税にも翻弄されて》しまった。僅か1年の短命に終わると分かっていたら、「政治とカネ、夫婦別姓、地位協定」 の1つだけでも決着させて、「やさしい悪魔」 の爪痕を遺しておけば良かったのにと悔やんでいるかもしれない。

    □ 大気吐くポプラ折れて、素手で撫でて、ステレオラブ、僕は聴いた
    今年は9月を過ぎても終わらない猛暑・酷暑の夏(クルーエル・サマー)だった。高温化した海水から大量の水蒸気を吸い上げて、熱帯低気圧から急変した台風の激しい風雨によって、河川の氾濫、家屋の床上浸水、崖崩れなどの被害が局地的に生じた。地球温暖化の影響なのか、北海道大学のポプラ並木も最大風速50mの強風に見舞われて数本が倒壊した。大学生の僕は15年ぶりにリリースされたステレオラブ(Stereolab)のニュー・アルバムを聴きながら、台風一過の早朝を散策していた。イヤフォン(AirPods Pro)を耳から外し、折れて痛々しい姿を晒したポプラ樹皮に手を当てる。光合成によって二酸化炭素を吸収し、酸素を放出する樹々の息吹を感じる。死後20年以上経ってもマリー・ハンセン(Mary Hansen)の不在を埋められない彼らの真摯な音楽と重ね合わせながら、目を閉じてポプラの声を聞く。

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     スニンクスなぞなぞ回文 #80

     ○▷▽ピンクパンサレス◎ずれサンバ、軍費▽▷○

     回文作成:sknys

     ヒント:「三人の騎士」(The Three Caballeros 1944)


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    火垂るの墓

    火垂るの墓

    • 著者:野坂 昭如
    • 出版社:新潮社
    • 発売日:2003/07/30
    • メディア:単行本(新潮文庫)
    • 目次:火垂るの墓 / アメリカひじき / 焼土層 / 死児を育てる / ラ・クンパルシータ / プアボーイ / 解説・尾崎 秀樹


    夏への扉 新訳版

    夏への扉 新訳版

    • 著者:ロバート・A・ハインライン(Robert A. Heinlein)/ 小尾 芙佐(訳)
    • 出版社:早川書房
    • 発売日:2009/08/07
    • メディア:単行本(ソフトカヴァ)
    • 内容:ぼくが飼っている猫のピートは、冬になるときまって夏への扉を探しはじめる。家にたくさんあるドアのどれかが夏に通じていると信じているのだ。そしてこのぼくもまた、ピートと同じように“夏への扉”を探していた。『アルジャーノンに花束を』の小尾芙佐による新しい翻訳で贈る、永遠の青春小説


    石の扉

    石の扉 キャリントン中・短篇集

    • 著者:レオノーラ・キャリントン(Leonora Carrington)/ 野中 雅代(訳)
    • 出版社:国書刊行会
    • 発売日:2025/04/08
    • メディア:単行本(シュルレアリスム叢書)
    • 目次:彼らが丘の斜面を駆けたとき / 三人の猟師 / 鳩よ、飛べ!/ シリル・ド・ガンドル氏 / 悲しみにうちひしがれて / 姉妹 / 白兎たち / 待ちながら / 七頭目の馬 / 中性の男 / 私の母は牛です / 私のフランネルのニッカーズ / 製薬業創始法 / エト・イン・ベリクス・ルナルム・メディアリス / 幸福な死体の物語 / メキシコのお伽噺 / グレゴリー氏の蠅 / 砂の駱駝/ ジェミマと狼 / 石の扉 / 解説 「作家レオノーラ・キ...


    Endless Summer

    Endless Summer

    • Artist: Fennesz
    • Label: Editions Mego
    • Date: 2006/12/06
    • Media: Audio CD
    • Songs: Made In Hongkong / Endless Summer / A Year In A Minute / Caecilia / Got To Move On / Shisheido / Before I Leave / Happy Audio / Badminton Girl / Endless


    Instant Holograms On Metal Film

    Instant Holograms On Metal Film

    • Artist: Stereolab
    • Label: Duophonic
    • Date: 2025/05/23
    • Media: Audio CD
    • Songs: Mystical Plosives / Aerial Troubles / Melodie Is A Wound / Immortal Hands / Vermona F Transistor / Le Coeur Et La Force / Electrified Teenybop! / Transmuted Matter / Esemplastic Creeping Eruption / If You Remember I Forgot How To Dream Pt.1 / Flashes From Everywhere / Colour Television / If You Remember I Forgot Ho...
    ラベル:palindrome stereolab
    posted by sknys at 00:10| 東京 ☀| Comment(0) | p a l i n d r o m e | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする