2026年04月01日

ネコ・ログ #81

721722723
724725726
727728729


  • ダルジュロスの支配圏を抜け出したあと、エリザベートが沈黙を守るようになり、姉と反目して生きのいい火花を散らすこともなくなると、ポールは自分でなんとかするしかなくなって、自分の本来の性向に従うようになった。性格の弱さから、彼はぐらつくようになったのだが、エリザベートはそれをちゃんと見抜いていた。彼女の陰険な警戒心はほんのかすかな兆候も見逃さなかった。ちょっとした楽しみを味わい尽くそうとする意地汚さ、喉をゴロゴロ鳴らしたり、舌舐めずりしたりするのが、彼女は大嫌いだった。火と氷でできた性格で、生温いものは認めようとはしなかった。そして、ラオデキアの教会の使いへの書簡にあるように、彼女はそれを 「口から吐き出した」。純血種の獣だった彼女は、ポールも純血種の獣であることを望んでいた。そして、初めて急行列車に乗ったこの少女は、機関車の太鼓(タムタム)に耳を傾ける代わりに、弟の顔を貪るように見つめていた。狂女の悲鳴のような汽笛が響き、狂女の髪のような煙が漂い、心を揺さぶる悲鳴をあげるその髪が、ときおり乗客の眠りの上面をかすめるなかで。
    ジャン・コクトー『恐るべきこどもたち』


  • #721│ケイ│飼い猫 ── 午年(2026)もよろしくにゃん
    やっと近所の三毛が撮れた。今までは目が合うと直ぐに逃げてしまったが、この日は警戒しつつも静止してジッと対象を見定めている。敵か味方か、ネコ嫌いかネコ好きか、虐待者なのか保護者なのかを慎重に見極めているのだろうか。顔を憶えてくれたのかもしれない。改めて間近で対面してみると、キリッとした男前(牝猫だと思うけれど)、その小さな躰と真摯な眼差しがネコ科動物であることを主張しているかのようだ。ジョナサン・B・ロソスの『ネコはどうしてニャアと鳴くの?』(化学同人 2025)の古いジョークじゃないけれど、「ネコが大型サイズじゃなくてよかった」 と思う。ジーン・ウルフの短篇 「ソーニャとクレーン・ヴェッスルマンとキティー」 の中で、遺伝子操作で生まれた女優ジュリー・ニューマー(キャットウーマン役)似のネコ娘キティーが死んだ主人を食べてしまうのだから。

    #722│ハル│ノラ猫 ── アーカイヴ・キャット 4
    なかなか新参ネコに出合えない(写真を撮れない)ので、一時凌ぎというか、苦肉の策というか、撮り溜めたネコ・アーカイヴ(Photos)の中から茶トラを蔵出しした。「ネコ歩き」 していると、ネコ以外の不思議なものに出遭ってしまうことが稀にある。ある民家の前にいた茶トラを撮り終えて歩き出した時に、見慣れないものが視界に入った。ゴミ置き場の手摺りに纏めてある黄色いカラスネットが跪いて祈りを捧げている巡礼者のように見えたのだ。立ち止まって 「黄色い人」 を撮っていたら、絶妙のタイミングで茶トラが来た(「猫と跪く人」 参照)。黄色いネットの前で香箱座りしているので見えないけれど、アライグマのような縞模様の長い尻尾が愛らしいネコである。「ゴミ置き場の黄色い人と茶虎ネコ」 の偶発的な出会いは 「手術台の上のミシンと蝙蝠傘」 のようにシュールで面白い。

    #723│ベル│飼い猫 ── 耳先キャット・カット
    外ネコに出会う機会が激減している。撮れるのは同じ場所にいる顔馴染みの飼い猫ばかり。茶トラのベルちゃんも常連ネコの1匹である。民家二階の出窓から、悠然と外を眺めていることもあるが、この日は外に出て来ていた。このショットはツリ目で、睨んでいるように見えなくもない。同じツリ目でもキジトラのサカちゃんのように人懐っこくはないけれど、警戒心の強い三毛ネコのゴトちゃんのように自ら逃げ出したりはしない。「キジトラは人懐っこい ?」 のだろうか。『今日もネコ様の圧が強い 2』(KADOKAWA 2026)に登場するキジネコ様は凶暴性が増しているようで怖い。『ネコの狂気』(山と溪谷社 2025)の著者クロード ・ベアタならば行動障害を疑うのではないかと思うレヴェルである。ベルちゃんの切りすぎた左耳先カットは痛々しく見えるけれど、本人は意に介してなさそうだ。

    #724│レイ│飼い猫 ── 猫八郎がゆく!
    日本初の女性総理大臣が 「馬車馬のように働く」 と公言した今年(2026)は午年、それも干支の組み合わせで、60年に一度巡って来る丙午である。前回の1966年は前年よりも出生数が25%以上減って、社会に大きな影響を与えたという。なぜなのか?‥‥《丙午に生まれた女性は「男に勝る勝ち気で、七人の夫を喰い(性交し)、家をも倒し、女としての義務を円満に為し得ない」。ほかにも 「精力旺盛な馬のように性欲が強い」》という非科学的な女性蔑視の迷信のせいだった。「丙午の女性は気性が荒く、夫の寿命を縮める」 と信じて、出産を控える男女(夫婦)が少なくなかったらしい。このミソジニーが今でも根深く信じられているのかどうかは今年の出生数で明らかになるだろう。「馬がゆく!」 の主人公・風祭九郎(馬九郎)は大金の詰まったバッグを携えて、日本国内を放浪するが、猫八郎(レイ)は人間社会の金や性や柵に囚われることなく、「猫のジョナス」 のように自由気儘に生きている。

    #725│マープル│飼い猫 ── 三毛猫のみいちゃん
    三毛猫のみいちゃんはパン屋さんの女店主。早起きして、眠気覚ましに四股を踏む。パン生地を捏ねて丸めて、オーブンに入れる。パンが焼けるまで一休み。みいちゃんは夢の中で横綱になって土俵入り。小さな縞猫3兄弟と相撲を取る。転がっても痛くないのはパンで出来た土俵だから‥‥パンと相撲は相性が良い。横綱の綱は捻りパン、エプロンは化粧まわし、土俵の俵もバゲットに似ている。作者・町田尚子によると、「いつかは相撲取りになりたい」 とは全く思っていない猫だったが、編集者の思い込みを汲んで 「横綱が夢」 という設定に軌道修正したという。三毛猫のパン屋店主が横綱を目指す女力士という前代未聞の設定が面白い。キジネコのレイと一緒に暮らしている三毛猫のマープルは高いところが大好き。四股を踏んだりはしないけれど、民家2階のヴェランダから下界を見下ろしている。

    #726│スワ│飼い猫 ── ネコと自転車 6
    白黒ネコのスワちゃんと白茶ネコのペタちゃんは兄弟姉妹。母猫は可愛い三毛だったが、産まれた子猫に三毛はいなかった。2匹は尻尾の短いジャパニーズ・ボブテイルで、ペタちゃんだけは尻尾が長い。出ずっぱりのペタちゃんとは対照的に屋内にいることが多いのか、スワちゃんとは滅多に出会わない。それでも会った時には近寄って来て、挨拶を交わしてくれる。ジャンナッツ(JANAT)は創業者・貿易商人ジャンナッツ・ドレス氏の愛猫サムとポウが主人の帰って来る朝に玄関前で待っていた(主人の帰宅する日を家族は知らないけれど、ネコたちには分かっていた!)という逸話のある紅茶ブランド。この実話(True Story)と2匹のネコのパッケージが気に入っているので、今年もジャンナッツ限定の 「猫の日セット」 を実店舗(サロン・ド・テ・ジャンナッツ表参道)で購入した。ネコ好き紅茶愛好家の帰宅を出迎えてくれるのは近所のペタちゃんだけですが。

    #727│?│── キャット・フィギュア
    民家の中庭に可愛いネコがいた。カメラを向けてピントの微調整している間も微動だにしないので不審に思って目を凝らして見ると、リアル・キャット(生身の猫)ではなかった。玄関前に鎮座している大型犬(置物)にドキッとするのは一瞬本物の犬だと視認してしまうからだ。雨樋のガーゴイルに驚かないのは架空の怪物だと分かっているからである。小さなネコに恐怖を感じることはないけれど、キャット・フィギュアは珍しい(ライオンやトラ何度の大型ネコ科動物だったら怖いかもしれない?)。かつて家で飼っていた猫の 「形見」 なのだろうか。人間は普段目にしているものが想像と違っている時に驚く。地下鉄に乗車中、乳母車から犬の吠え声が聞こえた時は心底ビックリした。ヴァージニア・ウルフの短篇 「壁のしみ」 の正体は釘(nail)の痕ではなく、蝸牛(snail)だった。

    #728│ケン│ノラ猫 ── 食事中ニャン
    I神井川沿いの遊歩道の植え込みにネコがいた。ちょうど食事時らしく、男性が運んで来たキャット・フードを食べている最中だった。男性に撮影は遠慮するように諭され、ネコも迷惑そうな上目遣いだったが、1枚だけ撮らせてもらった。米マサチューセッツ在住の作家兼イラストレーターによる絵本『大事なことはみーんな猫に教わった』(径書房 2020)には愛猫ビッキーと一緒に暮らして得た処世訓が白猫のイラストに添えられている。「おなかが空いたら食べること」 「おなかが空いていなかったら、食べ物をおもちゃにすること」 「もし食べ物が見えなかったら、ねだること」 「ためらわず、人のお皿から食べること」 「でなきゃ、残り物をたいらげる」‥‥ノラネコよりも室内飼いのネコの方が恵まれているようだが、人間への容赦ない猫パンチは耳が痛い。その秘訣はネコのように、「自分勝手」(訳者・谷川俊太郎)に生きることである。

    #729│ペタ│飼い猫 ── ネコヅメのひる
    ネコの方がヒトよりも早く相手を見つけられるのは視覚ではなく、その優れた聴覚なのかもしれない。歩く速さや歩幅などによって一人ひとり特徴が異なるという 「足音」 から、その人物を特定している可能性が高い。相手を見つけるとニャンと鳴いて、小走りに駆け寄って来る。尻尾を垂直に高く上げて、お尻ポンポンを要求。次にゴロンと引っくり返って、お腹を撫でるように催促。さらに前肢で手に戯れついて、甘噛みする。その一連の動作が3点ワンセットである(それを何度か繰り返す)。信頼の情を表わしているのは嬉しいけれど、爪を引っ込めずに軽く引っ掻かくのは困りもの。爪を出さないように、爪を肉球に押してみるのだが、なかなか分かってもらえない。絵本『ネコヅメのよる』(岩崎書店 2021)は夜空に現われる妖しいネコヅメ(三日月)を大勢のネコたちが見上げるイヴェントだったが、ペタちゃんの 「ネコヅメのひる」 は可愛らしい。

                        *

    各記事のトップを飾ってくれたネコちゃん(9匹)のプロフィールを紹介する 「ネコ・カタログ」(cat-alog)の第81集です。サムネイルをクリックすると投稿した記事のネコ写真に、右下のナンバー表の数字をクリックすると該当紹介文にジャンプ、ネコの見出しをクリックするとトップに戻ります。今までに720匹以上のネコちゃんを紹介して来ましたが、こんなにも多くのネコたちが棲息していたことに驚かされます。第81集の常連ネコはベル、スワ、ペタちゃん。猫の手を借りたいと思うほどに、外ネコを見かけることが少なくなってしまったので、レイ、マープルなど、アーカイヴ・キャットに再登場してもらいました。その中の極めつけはフェイク・キャット(ネコの置物)でしょうか。新訳『恐るべきこどもたち』(新潮社 2025)の表紙には子猫を抱いてソファ・ベッドに横たわる少女のポートレイト(Jamie Casper)が使われていますが、作中にネコは1匹も、ポールの比喩表現を除いて登場しません。文庫版の猫カヴァは空前のネコブームに当て込んだ 「偽ネコノミクス」 ではないか、それとも 「ポール子猫説」(ポール=子猫)というアナロジーなのでしょうか?

                        *
                        *



    恐るべきこどもたち

    恐るべきこどもたち

    • 著者:ジャン・コクトー(Jean Cocteau)/ 村松 潔(訳)
    • 出版社:新潮社
    • 発売日:2025/10/29
    • メディア:文庫(新潮文庫 コ 3-2)
    • 内容:美しいものはとてつもない特権に恵まれているーー。こども時代のために生まれてきたかのようなエリザベートとポールは、まるで双子用の揺りかごで揺られるように暮らしていた。深く愛し合いながら同時に苦しめ合うふたりの部屋へジェラールとアガートが加わり、世界は変質してゆく。純粋すぎたエリザベートが選んだ結末は? 発表以来、世界の数多の芸術家を触発し、色褪せることなくフラン...


    ネコはどうしてニャアと鳴くの?

    ネコはどうしてニャアと鳴くの?すべてのネコ好きに贈る魅惑のモフモフ生物学

    • 著者:ジョナサン・B・ロソス(Jonathan B, Losos)的場 知之(訳)
    • 出版社:化学同人
    • 発売日:2025/02/13
    • メディア:単行本
    • 目次:モダン・キャットのパラドックス / ネコはどうしてニャアと鳴くの? / 優しいものが生き残る / 数の力は偉大なり / 昔のネコと今のネコ / イエネコという「種」の起源 / 古代のネコを掘り起こす / ミイラが明かす本当の故郷 / 三毛柄トラがいないわけ / モフモフネコの物語 / 百花繚乱キャットショー / しゃべりだしたら止まらない / 伝統品種と新品種 / ヒョウ柄ネコと野生のよび声 / キャットアンセス...


    猫の狂気

    猫の狂気 ふしぎで豊かな「猫のこころ」をめぐる探検

    • 著者:クロード・ベアタ(Claude Beata)/ 瀧下 哉代(訳)/ 尾形 庭子(日本語監修)
    • 出版社:山と渓谷社
    • 発売日:2025/11/04
    • メディア:単行本
    • 目次:序文 / はじめに / ジョーカー、あるいは猫の二面性 / 縄張りと苦痛 / 他者との関係、持つべきか持たざるべきか? / 狂った猫の巣の上で / 現代の象徴 / おわりに──共に歩む / 日本語版解説 尾形庭子 / 原注


    今日もネコ様の圧が強い 2

    今日もネコ様の圧が強い 2

    • 著者:うぐいす歌子
    • 出版社:KADOKAWA
    • 発売日:2026/01/15
    • メディア:コミック
    • 目次:ネコ様と人間の紹介 / 我が家のネコ様 / ネコ様のある日 / ネコ様と人間 / ネコ様のお写真 其の一 / 長編描き下ろし キジネコ様がいなくなった日 / リアルネコ様の裏話 / ネコ様のお写真 / ネコ様語録 / あとがき


    ネコヅメのよる

    ネコヅメのよる

    • 著者:町田 尚子
    • 出版社:岩崎書店
    • 発売日:2021/11/16
    • メディア:大型本
    • 内容:「間違いない。今夜だ」 猫の秘密、教えます ある夜のことです。「まちがいない。こんやだ」 「いそげ、いそげ 」 あっちから、こっちから、猫が集まってきます。みんなが待ちこがれていたものが、もうすぐあらわれます。隅から隅まで、町田尚子さんの描く猫たちの魅力が堪能できる1冊 インパクトある表紙も魅力的!その表紙カバーをめくると、描き下ろしの豪華ポスターになっていま...
    ラベル:catalog Cats Janat
    posted by sknys at 00:00| 東京 ☁| Comment(0) | c a t a l o g | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
    この記事へのコメント
    コメントを書く
    コチラをクリックしてください