2026年02月21日

猫のみいちゃん



  • ある秘密をお教えしましょう。「猫はいつもモフモフの着ぐるみの内ポケットに赤い手帳を忍ばせもち歩いていて、不愉快なことがあるとそこにメモしている」 のです。ここに書かれたメモには、一旦書かれたら消せないという厄介な特徴があります。したがって、飼い主は猫の手帳に記録されるようなことは何が何でも避けなければなりません。そのためには、体罰や言葉による罰、猫を怖がらせるような威嚇、不快感を与えるような扱い方を永遠に禁止しなければならないのです。/ たとえ、あなたの猫がカーテンに十二回目の尿マーキングをしたり、大切な花瓶を割ってしまったしても、猫をたたいたり大声で怒鳴ったりする前に、赤い手帳のことを思い出して我慢しましょう。これは、猫の行動を全て受け入れなければならないという意味でも、猫を躾けるのは不可能だという意味でもありません。ただ、猫を威圧することによって問題が解決することは決してないということです。
    クロード・ベアタ『猫の狂気』


  • ◆ 猫にご用心(日本印刷出版 2025)ウィリアム・ボールドウィン
  • Google XのAIが最初に認識したのは 「ネコ」 だったというが、英語で書かれた最初の小説も 「猫」 だった。しかも単なる猫物語ではなく、又聞きの伝聞という何重もの〈入れ子構造〉になっている。友人宅に泊まっていたストリーマ氏は猫たちの鳴き声が煩くて眠れず、同じ屋根の下の人たちと猫についての雑談が始まる。使用人の1人が郷里に伝わっている話をした。猫を飼っている、ある人がカノックの森を馬に跨って通り抜けていると、薮から目の前に飛び出して来た猫が 「グリマルキンが死んだ」 と飼い猫に伝えてくれと人語で話した。帰宅後、その出来事を妻と家族に話すと、聞き耳を立てていたティットン・タットンが 「なに、グリマルキンが死んだとな? さらばご機嫌よう、奥様」 と言って、家から出て行ったという。グリマルキンが殺された経緯が語られる 「ストリーマ氏の語り 第一部」。ストリーマ氏が魔女よろしく、秘薬を生成して猫語を解するようになる 「第ニ部」。猫たちの夜の集会(牝猫の身の潔白を明かすための裁判が開かれる)を盗み聞きする 「第三部」。ボーナストラックとして、「猫の王様」 伝承編(3篇)と物語編(2篇)を併録した 「猫文学」 ニャンソロジーである。

  • ◆ 彼らが丘の斜面を駆けたとき(国書刊行会 2025)レオノーラ・キャリントン
  • 《これは凄い光景だった。駆け抜けたのは五十匹の黒猫と五十匹の黄色い猫と、それに彼女で、彼女が人間なのか誰にもわからなかった。疑問を投げかけたのは、香辛料と猟鳥と猟獣、馬屋、和毛と草の混じりあった彼女の匂いだった》‥‥ヴァージニア・ファーは森ガール。自転車に跨って、丘の斜面を駆け降りる。断崖の間を抜け、木々を横切って、最悪の道を駆ける。立て髪のように長い髪は数メートルも伸び、手は並外れて大きく、指は汚れていた。《山の住民は彼女に敬意を払ったし、彼女もいつも彼らの風習に敬意を払った。そう、山の住民とは植物と動物と鳥たちで、さもなければ事情は違ったであろう。もちろん、彼女はときに猫の辱めに耐えなければならなかったが、彼女も同様に声を張り上げて猫語で応酬した》‥‥ファーは自転車に乗って、毎晩狩りに出た。敬意を払っている山の獣たちも、彼女に進んで殺戮されることなく、週に数日は迷い牧羊犬、時には羊肉、稀に子供を食べていた。メキシコに亡命した女性シュルレアリスム画家の小説は絵画に負けず劣らず面白い。

  • ◆ 猫の刻参り(新潮社 2025)宮部 みゆき
  • 神田三島町の袋物屋三島屋の次男・富次郎は二代目聞き手。絵師・花山蟷螂に弟子入りする一方で、口入れ屋・灯庵から来た語り手の 「変調百物語」 を黒白の間で聞き捨てる。蟷螂師匠が富次郎に課した枷は物語の肝を聞き定めて煮詰めた、1枚の看板絵を描くことだった。「上品の大年増の来客」 お文は母方の祖母おぶんが打ち明けた怪異譚を語る。17歳の時に瘧(熱病)に罹って、顔の左半分が痺れる後遺症に傷心し、縁談も壊れて失意の余り首吊り自殺しようとした孫娘お文に語ったのは祖母が嫁いだ家の舅姑と夫、「祖父親子三人の悪口」 と 「懲らしめ」 だった。世話焼きの商い仲間が持ち込んで来た縁談話に辟易したおぶんは両親と兄夫婦と相談して、父親が懇意にしてもらっていた柳川村の地主の許へ、行儀見習いの名目で身を隠すことになる。隠居夫婦の隠居所に集まって来る猫たちにチャミ、キンクロ、シロ、コシロという名前をつけて世話をする。ある冬の朝、勝手口から空模様を仰ぎながら口にした独り言に、「まるで島帰りの刺青みたい」 な黒い縞の輪っかが右前脚に2つある猫シマっこが人語で話しかける。表題が 「丑の刻参り」 を想わせるような猫神様(化け猫)の復讐譚。

  • ◆ ネコはどうしてニャアと鳴くの?(化学同人 2025)ジョナサン・B・ロソス
  • トカゲの研究で知られる進化生物学者によるネコ学(アイルロロジー)。「モダン・キャットのパラドックス」 から 「ネコの未来」 まで、全20章でネコの進化を論考する。アフリカヤマネコから進化したものの、今でも 「準家畜」(ヒトへの 「片利共生生物」)のイエネコ(Felis catus)とノネコ(ノラネコ)。突然変異や異種交配で生まれた鼻ペチャのペルシャ、お喋りサイアミーズ、デカ猫メインクーン、活発なベンガルなど多様な品種。人為淘汰と遺伝子工学による進化。三日月刀のような牙を持つサーベルイエネコの誕生までを夢想する。飼い猫ジェーンとウィンストン姉弟にキャットトラッカー(GPS装置)とクリッターカム(ネコカメラ)を装着して行動と生態をチェックする。事故や感染のリスクの少ない室内飼いを目論みながら、外に出たがる愛猫ネルソン(ヨーロピアンバーミーズ)に根負けし、キャットトラッカーを首輪につけて、iPhoneで見守る日々。巻末に 「出典についての原注」 と 「索引」。 原題 「The Cat's Meow」、サブタイトル 「How Cats Evolved the Savanna Your Sofa」。「すべてのネコ好きに贈る魅惑のモフモフ生物学」 というキャッチコピーは意訳すぎ?

  • ◆ 猫の狂気(山と溪谷社 2025)クロード・ベアタ
  • フランスで飼われている猫は1500万匹、飼い主は平均で1匹以上(正確には1.68匹)飼っているという。仏動物行動学・獣医精神医学者は 「猫の視点に立って猫の世界を探検する」。歴代の飼い猫ミヌー、チキータ、フローラ、ガリネット(スフィンクス)との暮らし、診察したファースト、ルシファー、ヌガー、ヌガティーヌ(シャム猫)、シュペット、ラミュ、キ ャラメル、タバサ(ラグドール)、リュカ、イシス、キス、リスベート、メリー(アビシニアン)、ハンニバルなどの行動障害‥‥うつ病、不安症、恐怖症、双極性気分変調症、解離性症候群、HSHA(過敏性多動性症候群)と治療法を具体的に語り、猫のウェルビーイングを目指す。被食者として身を守り、捕食者として狩りをする 「猫の二面性を理解すること」 「調和のとれた生活環境」 など、5つの鍵を読者に授け、「体罰は決して猫のためになりません!」 という獣医師のマントラを唱える。全5章の扉にヴィクトル・ユーゴ ー、ジャン・コクトー、チャールズ・ダーウィン、ウジェーヌ・イヨネスコ、コレットのエピグラフを掲げ、見出しに映画やTVドラマ、ヒット曲、著作のタイトルを付ける構成も洒落ている。

  • ◆ ネコ町ナーゴの猫だより(労働教育センター 2024)モーリーあざみ野
  • 『ナーゴの猫町めぐり』(NHK出版 2004)から20年‥‥地中海に浮かぶ島、猫が丸まったように見える小国ナーゴ(NEARGO)は人間と猫が共存する理想郷である。口絵マップを見た時は復刊したのかと思ったが、新作描き下ろしだった。総面積44km2、人口約2万人と2万2千匹の猫が共に暮らす 「猫町ナーゴ」 。アクセス、登録制度、「14世紀初頭にニャンベルク城を築城したニャンベル伯爵(1271~1331)と共に移り住んだ50匹余りの猫達がNEARGO CATのはじまり」 というナーゴの歴史、通貨、市役所の基金課が母体となった里親探し組織 「NEARGO & NEARGO」 ‥‥腹ペコの猫たちを連れてジョナス家に来る自由猫ブーツ、観葉植物や生花を齧ったり毟 ったりする悪戯盛りのムルムル、主人が習い始めたヴァイオリンを我慢して聴くミュート、スーツケースや鞄の中に入るのが好きなルアン、玄関のベルが鳴ると壁とドアの隙間に逃げ込む人見知りのフィリックスなど、猫と一緒に暮らして、日々観察している人でないと書けない38のエピソードが可愛い猫のイラストに添えられている。

  • ◆ どすこいみいちゃんパンやさん(ほるぷ出版 2023)町田 尚子
  • 「猫のパン屋さん」 ならば絵本にありそうだが、店主が 「女力士」 というのは前代未聞ではないかしら。三毛ネコのみいちゃんは早起きして、眠気覚ましに四股を踏む。パン生地を捏ねて丸めて、オーブンに入れる。パンが焼けるまで一休み。みいちゃんは夢の中で横綱になって土俵入り。小さな縞猫3兄弟と相撲を取る。転がっても痛くないのはパンで出来た土俵だから‥‥みいちゃんのモデルは知人の飼っている 「どすこい系」 の三毛猫。「知人がケーキやパンの教室を開いていたので、どすこい系の猫とパンがくっついたら面白いと思ったのがきっかけ」 だったという。パンと相撲は相性が良い。横綱の綱は捻りパン、エプロンは化粧まわし、土俵の俵もバゲットに似ていることに気づいた。「いつかは相撲取りになりたい」 とは全く思っていない猫だったが、編集者の思い込みを汲んで 「横綱が夢」 という設定に軌道修正した。作者が初めて一緒に暮らした猫 「白木」(絵本『ネコヅメのよる』のモデル)もパンの師匠として、楕円形の額縁に収まってカメオ出演している。まさに座右の銘 「隙あらば猫」。

  • ◆ 花やゆうれい(ほるぷ出版 2025)佐藤 弓生(歌)/ 町田 尚子(画)
  • 中川多理と川野芽生の共著 「人形歌集」 シリーズは人形にインスパイアされた短歌だったが、「花やゆうれい」 は町田尚子が愛読していたという佐藤弓生の歌集からイメージして描いた歌画集になっている。巻頭右頁の〈名もなき、だなんて言っても誰も名を知らないだけの花やゆうれい〉の左頁に、首からカメラを下げ、黄色い襟幕を巻いて、紺色のスモックを着たネコが右前肢で一輪を持っている絵 「花や幽霊」(2025)が添えられている。必ずしもネコを詠んだ短歌というわけではないのに、耳先カットしたネコたちと、おかっぱ少女の猫画集になっているところが 「隙あらば猫」 の画家らしい。もちろん〈どこにでも入ってゆける猫だから爪あとほどの夜の隙間へ〉〈耳欠けてこのあとどこへゆくでしょうむかしの切符みたいな猫は〉〈おかっぱとしっぽ それぞれみなし児のしるしにつかずはなれずふたり〉というような猫短歌もあるけれど。84首の短歌と描き下ろし22点を含む全65点の絵画を掲載。「作品リスト」 「初出一覧(短歌)」 付き歌画集。ノンブルがないので、タイトルと絵が参照し難い。

  • ◆ ふしぎな鏡をさがせ(小学館 2024)キム・チェリン(作)/ イ・ソヨン(絵)
  • 少年ジンがアリスのように鏡を通り抜けて、祖父(鏡の世界から来たおじいちゃん)の失くした手鏡を探しに行くファンタジー絵本。おじいちゃんの残したヒントを手がかりに、書斎の鍵の架かった引き出しの暗証番号を見つけたり、黒猫キティと一緒に 「鏡は何色でしょうか?」 という問題を解いて、ベルサイユ宮殿(鏡の間)行きの鏡のエレベーターのドアロックを外したりする。読者も 「付録の鏡シート」 を使って、ジンと同じように鏡文字を書いたり、万華鏡を手作りしたり、ブルネルスキの遠近法で絵を描いたり、立方体をアナモルフォ ーシス(Anamorphosis)で描いたりして遊べる。ジンの冒険も合わせ鏡の無限回廊のように奥深い。おじいちゃんの飼い猫キティも水先案内ネコ以上の重大な役割を演じる。ラストのドンデン返しには意表を衝かれた。イヌオオカミは冥界の番犬ケルベロスだったのか、鏡の世界はパラレル・ワールド、それとも 「黄泉の国」 だったのか?‥‥横尾忠則の 「アート書評」(朝日新聞 「読書」 2024・10・26)も鏡文字(手鏡がないと読めない!)だった。

  • ◆ 3つの鍵の扉(晶文社 2013)ソニア・フェルナンデス=ビダル
  • ファンタジー仕立ての子供向け素粒子論入門書。少年ニコはベッドの上で金縛りになったように動けなかった。通りを走る車が反射して天井に映し出されるように、「何かを変えたいのなら、いつもとちがうことをしよう」 というメッセージが現われたのだ。ママに急かされて慌ただしく家から出たニコは遅刻するのにも構わず、謎のメッセージとロバート・フロスト風の詩に背中を押されて、学校への坂道とは逆の方向へ坂を上って行く。荒れ果てた大きな家の前で足を止めた。今にも壊れそうなボロ屋なのに、入り口の扉だけは真新しくて、頑丈そうな鍵穴が3つもあった。扉の左端に現われたインターホンの赤いボタンを押すと、「待ってたわ、どうぞ入って」 という声が遠くから聞こえた。ニコは鍵がないので扉を開けられないと悩むが、鍵は架かっていなかった。一歩中に入ると深い闇だった。足許で何かの影が動くのを見て驚き、後ず去ると背中が扉に当たって真っ暗になった。影の正体は大きな黒猫だ った。素粒子界に迷い込んだニコが少年科学者エルドウェン、妖精Qキオーナ、小人イリーナ、シュレディンガーの黒猫たちに案内されて、ゼン・オー師匠に会いに行きます。

                        *                    *

    posted by sknys at 00:02| 東京 ☀| Comment(2) | c a t s c r a d l e | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
    この記事へのコメント
    いま私の町の図書館で、猫の特集をしています。
    猫の出てくるお話、絵本など。
    たくさんあるなあ、ってみてました。
    sknysさんの蔵書は負けてないと思うけど。^^
    Posted by ぶーけ at 2026年02月24日 23:09
    読んだのは図書館の本なので、「猫本」 の蔵書は少ない‥‥というか、
    目下 「リアル引越し」 の準備中で、重くて嵩張る単行本や雑誌を断捨離しています。
    愛読していた月刊 「LaLa」(「摩利と新吾」 「ルーとソロモン」 「綿の国星」 「日出処の天子」 など)を捨てるのは断腸の思いにゃん。>﹏<。
    Posted by sknys at 2026年02月25日 20:02
    コメントを書く
    コチラをクリックしてください