2026年02月01日

馬九郎がゆく!



  • マンガとは、夢の異界を描くのに最適の媒体、と思っていたので、いきおい作品もその手のモノが多かった。が、「この馬がゆく!」 は、殆んど初めての現代風俗をモチーフにした作品であった。──その出来はともかく、よりリアリティを出すために、と "現場取材" に出かけた(マンガがリアリズムを重視するようになったのは、この頃からかも知れない)という思い入れなどもあって、好きな作品になった。できれば続編を描いてみたい一本、でもある。
    「石ノ森章太郎自作を語る 馬がゆく!」


  • □ 馬がゆく!(ビッグコミック 1972年4月25日号〜1973年12月25日号)
  • 風祭九郎(馬九郎)は大金(1〜5千万)の詰まったバッグを携えて、日本国内を放浪する。馬並みの巨根と大金によって、女絡みや金絡みの事件に巻き込まれるが、馬九郎の一蹴りで一件落着ということにはならない。リアリティを出すために、「資料集め、調査と称して方々飲み歩き "見学" に行き・・・ながら描いた」 と、著者が語っているように、70年代の日本を赤裸々に描いたリアルな "風俗マンガ" になっているからだ。一話読切りの連載巷談(全41話)のストーリーが進むに連れて、馬面男の出自が明かされる。馬九郎は大財閥の御曹司で、強権的な母親から10億円を自由に使うという 「人生修業」 を命じられ、令嬢・鵬華奈との政略結婚を仕組まれていた。馬九郎の本心とは裏腹に、鵬財閥の一人娘には気に入られ、さらに華奈の友人キャサリン(米マフィア王の娘)に求愛されて、金と性の深みにハマって行く。

                        *

    オープンカーに乗った女性から誘われた馬九郎はモーテルへ行くが、姉弟の仕組んだ美人局だった 「ケリつけさせてもらいます」
    東京電環→伊東行きの特急券を拾った馬九郎が新幹線(グリーン車)に乗車すると、隣の席に前田志摩が乗り合わせる。2人が宿泊したホテルの天井裏から、志摩を捨てた男・民雄と新婦の情事を覗き見る 「生きがいなんて・・・こんなものじゃない! 」
    馬を買いに来た馬九郎は老調教師に断られて、厩舎で働くことになる 「馬は・・・大嫌いだわ!」
    キャバレー・リュウグウのマッチ箱に入れた伝言メモ 「ツカレチャッタ / サヨナラミッチャン / ヨシコ」 を馬九郎に手渡しして、ホームに入って来た電車に飛び込み自殺した女性の遺言を届けに行く 「あんただって金の力は知ってるはずだから・・・あ あたしの気持ち・・・」 「──わかる」
    ブルーフィルムを制作・販売している男がマニアの顧客主人にダメ出しされ、その社長夫人似の女優・井鈴美沙子を主演したSMフィルムを馬九郎が撮る 「監督・脚本・撮影・・・主演ってのどうだ?」

    不渡りを二枚も出して、戸塚社長が自殺未遂を図った縫製会社の再建に馬九郎が乗り出す 「ほしけりゃ くれてやらあ」
    河原に打ち上げられた全裸女性の死体(甚兵衛さんの娘・豊子)を発見した馬九郎が殺人事件の真相を暴く「あんた、刑事さん? それとも・・・犯人!? 」
    ヨット・スクールに入会した野田清吾、馬九郎、モデルの水原ミーナが船長・小笠原のゴールドフレンドに乗ってクルージングし、野田と小笠原がミーナの潜水深度の賭けをする「太陽がいっぱいか!」
    人気歌手の波月リカにスキャンダルが発覚して失墜した。その情報提供者はスカウトからデビュー、プロモーション、プロダクションにまで、大金を投じた馬九郎の仕業だった 「どうせあたしは商品なんでしょ? ええ・・・あたしもそう思ってるわ! 」
    北海道・北香町で町民の娘を攫い、財産を略奪する "チーム龍虎" というレースカーの狂走族の一掃を次期町長選挙に出馬する有力者が馬九郎に依頼する 「ぶっ殺してやる!」

                        *

    売春宿で馬九郎との情事中に貴美が中座した。男たちに呼び出され、自動車で埠頭に連れて来られた女性を馬九郎が救けて、彼女の実家に行くと、兄の勝造が麻薬を盗み出したと疑うヤクザたちに義姉の貴美が脅されていた 「?」
    温泉地で馬九郎は情事を重ねる芸者・玉美に頼まれて、半玉の水揚げをする。先を越されて怒り心頭の老親分たちが3人の宿に乗り込んで来る 「鈴虫芸者」
    ヌード劇場 「スター」 でストリップを観劇し、お座敷ショーを開いたホテルに、踊り子・信江のヒモ男が闖入。素行調査をしていた鵬華奈と馬九郎のが初対面する 「やつに聞いてみな」
    久しぶりに飲食店2階の下宿へ帰って来た馬九郎当てに2通の手紙届いていた。母親からの縁談話と鵬華奈からデートの誘い。馬九郎とサイズが合わずにチェンジした売春婦の代役に、華奈の友人キャサリンが派遣される 「ロマンチックな赤坂の夜・・・ねェ」
    珍山荘に引っ越して来た馬九郎の部屋に、隣の住人・茨木がお近づきの印に大人のオモチャを差し入れる。精巧なダッチワイフの製作を依頼する 「どれが大人のオモチャだって? 」

    荒れる冬の海。島に置き去りにされた5人の釣り人たち。漁師、島岡、圭子、綾子、馬九郎。船頭の他殺隊が発見され、馬九郎が犯人を明かす 「どこへ行っても逃げられねェ」
    アパートに住む馬九郎の部屋に男装したキャサリンが現われた。女人禁制のシークレット・クラブに行った馬九郎がディーラーの八百長ルーレットを見破る 「目ん玉じゃなく そっちの球をまわしなよ」
    寝正月を決め込んだ馬九郎の許へ、丑年生まれの女による 「牛の会」 から家政婦、下宿先の飲食店主と看板娘・美代、華奈とキャサリンが一堂に会する 「ウシウシ・・・」
    バー「サラブレット」で飲んでいた馬九郎の前に、店のオーナーでマダム芳子の愛人である爺さんと娘が訪れた。老人との口論の末、猛吹雪の中、牧場まで30kmを歩くことになる 「まァ・・・飲みねェ」
    崖から海へ飛び降り自殺しようとしていた黒衣の女性を思い止まらせようとする 「・・・しみついた あの海の色はもう・・・」

                        *

  • アイデアを考えるとき、われわれの仲間は、それぞれ独自の方法を持っている。/ 風呂に入る、トイレで考える、散歩するなどといった、わりとまともなものから、酒を飲む、女を抱く、そして誰かとケンカをしないと‥‥という物騒なもの、あるいは、金が一文も無くなって、心身ともに飢餓状態にならないとアイデアのアの字も浮かんでこないという始末の悪いものまで、それはもうさまざまなのである。で私の場合はどうかというと・・・。人々の話し声、スピーカーから流れてくる騒音に近い音楽、汚れた空気、まずいコーヒー、そしてしめ切りは "昨日" という時間条件・・・これが揃っていないと、ダメなのである。そう、喫茶店の喧騒の中で、コーヒーをすすり、タバコをやたらにプカプカふかし隣の席に苦虫を噛みつぶしたような顔の編集者を置き、テーブルの上のまっ白な原稿用紙を睨んで──アイデアをひねり出すのである。もう単行本にして200冊を越える(ア〰︎アやれやれ・・・)私の作品の殆どは、こうして生まれたものばかりだが、この 「馬がゆく!」 だけは違うのだ。資料集め、調査と称して方々飲み歩き "見学" に行き・・・ながら描いたのである。
    石森 章太郎 「あとがき」


  • 母親に呼び出された馬九郎は鵬財閥の一人娘・華奈との縁談を断り、バー 「変身」 のホステスの身体を1千万で買う 「・・・こいつのなかみ? 紙クズさ・・・」
    馬九郎が振り返って高層ビルから飛び降り自殺した男を見つめる。小豆相場の仕手戦に必要な証拠金3億円をキャサリンの友人に融資する 「だいやノ赤イノミタコトナイ」
    赤ん坊を誘拐した容疑、チンピラを雇った傷害事件、レズビアン・ショウの摘発で警察に捕まるが、その度に保釈金が支払われて釈放される。キャサリンが仕組んだ 「マフィア?」
    3人の男たちに殴り倒されていた銀座の手配師帝王・沖田から事情を聞き出し、馬九郎が過去に関係を持っていたヤクネタ(札つきホステス)と再会する 「銭で買えないものはねェ」
    薬漬けにされた馬九郎が独房から大部屋へ移り、精神病院 「栗里」 から脱走して、自分を陥れた男女(元精神病院の看護人と安バーのマダム)に復讐する「・・・臭えなあ」

    台湾・新北投温泉に逗留して500人斬りに挑んでいた馬九郎が日本人商社マンから、愛人・白蘭を紹介される「阿里山的姑娘(アリサンテクーニャン)」
    公園のベンチに嬰児を置き去りにした同棲カップルを咎めた馬九郎が昔を回想して、岡村夫婦(運転手と家事手伝い)に預けられた理由を母親から知らされる 「おふくろ・・・」
    国木田独歩 「武蔵野」(明治31年)からの長い引用。武蔵野線・西国分寺駅に降り立った馬九郎が拝殿で雨宿りしていた和服の女性・夕紀と出会う 「・・・ないものねだり・・・」
    公園のベンチにいた 「子連れ女」(赤の他人の保育士と豪邸に住む子供)に、5千万円を騙し取られる 「ジャリと女に仕掛けられ・・・」
    馬九郎が格安で購入した幽霊屋敷で、キャサリンと一夜を明かす。侵入した強盗が階段から転落死し、以前の持ち主・境田、バスルームで自殺した妻の侑子の亡霊が現われる 「幽霊?」

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    美人局の男女に依頼して盗撮した写真をネタに、8億で買い占めた河口一帯の土地を汚染廃水(PCB)を垂れ流している工場の社長に20億で買わせる「ごせいがでますな」
    交通事故で亡くなったトルコ嬢・瑪瑙の遺骨と金を島に住む父親・神無居征三に届けに行く 「ハァ ハァハァ ハァ ハァ・・・」
    ポルノさろん 「虚無僧寺」 で接待した女性の足を洗わせて、マンション暮らしをさせる 「笛吹けど 踊らず・・・」
    バー 「フォルフェ」 に来た人魚の爺さん。自ら海に沈めた 「眠れる緋い人魚」 を探し出して拾い上げたいという老人の願いを聞き入れて、常連客の潜水夫たちと海へ潜る「そのユメ買おうじゃねェか」
    チクったヨーコを廃屋で私刑しようとしていたとスケバン女子高生 「バラ・シスターズ」 と1人10万で取引して、マツリ(乱行パーティ)する 「あんたのツッパッたピンとじゃツイマでもタイマンかマツリなみに・・・」

    痴漢被害に遭った 「女性」 ヒロ子に誘われて自宅マンションへ行くと、入れ替わりに兄の弘一が現われて、ゲイバーに連れて行かれる 「カマうな!!」
    「絵美」のママから椿川荘に呼び出された馬九郎が幼友だちの新条美沙子を紹介される 「愛しちゃったのョ」
    白亜団地に住む主婦たちの秘密売春組織 「H・M・S」 のメンバー全員を買い占めた馬九郎がゴノコックス(淋病)に感染する 「イテテテテ・・・」
    納屋で開かれた弱小アングラ劇団(座長と女性団員2名)の 「バンザイ・サド革命」 を観劇した馬九郎が5千万円と引き換えに劇団を解散させようとする 「ぼくら モグラ・・・」
    籠ノ木村のバス停で待つ女漁師の網にかかりそうになった 「・・・しまらねェ」
    久しぶりに東京の下宿へ帰った馬九郎は店主から、娘・美代が来春挙式することを告げられる。キャサリンの住むマンションに行くと、愛人ジムと殴り合いになる。実家では脳梗塞で倒れて昏睡状態の母親が目を覚まし、かあさんから本心を聞かされる 「もう どうでもいいや」

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    • 「石ノ森章太郎萬画大全集 3-19・20、4-18・19」(角川書店 2006)をテクストに使いました。「本の通販ストア」 終了のため、デジタル大全(kindle)にリンクしています

    • 『石ノ森萬画館』(メディアファクトリー 1997)、『馬がゆく!3』(小学館文庫 1976)から引用しました

    • 「弓へん+許」 の当用漢字が見当たらないので、「阿里山的姑娘」 と表記しました
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    馬がゆく! 1 ── 石ノ森章太郎萬画大全集 3-19

    馬がゆく! 1 ── 石ノ森章太郎萬画大全集 3-19

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:角川書店
    • 発売日:2006/08/31
    • メディア:コミック
    • 目次:ケリつけさせてもらいます / 生きがいなんて・・・こんなものじゃない! / 馬は・・・大嫌いだわ! / あんただって金の力は知ってるはずだから・・・あ あたしの気持ち・・・」 「──わかる / 監督・脚本・撮影・・・主演ってのどうだ? / ほしけりゃ くれてやらあ / あんた、刑事さん? それとも・・・犯人!? / 太陽がいっぱいか!/ どうせあたしは商品なんでしょ? ええ・・・あたしもそう思ってるわ! / ぶっ殺してやる!


    馬がゆく! 2 ── 石ノ森章太郎萬画大全集 3-20

    馬がゆく! 2 ── 石ノ森章太郎萬画大全集 3-20

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:角川書店
    • 発売日:2006/08/31
    • メディア:コミック
    • 目次:? / 鈴虫芸者 / やつに聞いてみな / ロマンチックな赤坂の夜・・・ねェ / どれが大人のオモチャだって? / どこへ行っても逃げられねェ / 目ん玉じゃなく そっちの球をまわしなよ / ウシウシ・・・ / まァ・・・飲みねェ / ・・・しみついた あの海の色はもう・・・


    馬がゆく! 3 ── 石ノ森章太郎萬画大全集 4-18

    馬がゆく! 3 ── 石ノ森章太郎萬画大全集 4-18

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:角川書店
    • 発売日:2006/11/30
    • メディア:コミック
    • 目次:・・・こいつのなかみ? 紙クズさ・・・ / だいやノ赤イノミタコトナイ / マフィア? / 銭で買えないものはねェ / ・・・臭えなあ / 阿里山的姑娘(アリサンテクーニャン)/ おふくろ・・・ / ・・・ないものねだり・・・ / ジャリと女に仕掛けられ・・・ / 幽霊? / イラストコレクション


    馬がゆく! 4 ── 石ノ森章太郎萬画大全集 4-19

    馬がゆく! 4 ── 石ノ森章太郎萬画大全集 4-19

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:角川書店
    • 発売日:2006/11/30
    • メディア:コミック
    • 目次:ごせいがでますな / ハァ ハァハァ ハァ ハァ・・・ / 笛吹けど 踊らず・・・ / そのユメ買おうじゃねェか / あんたのツッパッたピンとじゃツイマでもタイマンかマツリなみに・・・ / カマうな!! / 愛しちゃったのョ / イテテテテ・・・/ ぼくら モグラ・・・ / ・・・しまらねェ / もう どうでもいいや


    石ノ森萬画館

    石ノ森萬画館 SHOTARO WORLD

    • 著者:石ノ森 章太郎
    • 出版社:メディアファクトリー
    • 発売日:1997/04/15
    • メディア:大型本
    • 内容:西暦2000年の画業45年に向け、新たなる活動を開始した石ノ森章太郎が、原画20万枚に及ぶ過去の作品世界に決着をつける。代表作描き下ろしイラストを満載、プライベートグッズや宝物なども初公開。
    ラベル:comic Ishinomori
    posted by sknys at 00:04| 東京 ☀| Comment(0) | c o m i c | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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