世の中にはリストマニアの遺伝子がある人とそうでない人がいるが、こういうトップ10的なものに僕の友人の多くが呆れる理由はわかる。長年の友人でライオット・ガールのジャニーンには、「男の子ってほんとリストが好きだよね」 とよく言われたものだ。でも自分に嘘はつけない。僕にとってのリストは 「人生で最も素晴らしいもの」 リストに入っている。ファンがリストをつくり始めるやいなや、『サージェント・ペパー』〔引用者註 :ザ・ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』〕はナンバーワンに躍り出た──実のところ、リストをつくったのは『ペパー』自身だった。バナナズ誌を買っているキッスやエルトン・ジョンのファンがこぞって『サージェント・ペパー』を支持したということが 、このアルバムの魅力を雄弁に物語っている。それはまさにサイケデリック版『アライヴ!〜地獄の狂獣』なのだ。「最高のものを求め、手に入れた」 とよりエレガントにいうことのほかに『ペパー』のテーマがあるだろうか?
ロブ・シェフィールド『ドリーミング・ザ・ビートルズ』◎ EUSEXUA(Young)FKA twigsFKAツイッグス(Tahliah Debrett Barnett)は英グロスタシャー生まれのSSWである。2nd《Magdalene》(2019)、ミックステープ《Caprisongs》(2022)以来3年ぶりの3rdアルバムである。タイトルは陶酔(euphoria)とセクシュアル(sexual)を組み合わせた鞄語で、没入と一体感、超越的な感覚、瞑想状態の境地を表わしているという。共同プロデューサーのDJ、Koreless(Lewis Roberts)と共作した〈Drums of Death〉、Kate Bushを髣髴させる〈Room of Fools〉、North West(Kanye Westの長女)が日本語でツイッグスとデュエットする
〈Childlike Things〉など、全11曲・43分。デジパック仕様UK盤、歌詞ブックレット(20頁)付き。2025年11月に相次いで、新曲4曲を収録した全11曲のリイシュー盤
《EUSEXUA》、PinkPantheressとコラボした〈Wild And Alone〉など、全11曲入りの続編
《EUSEXUA Afterglow》をデジタル・リリースしたが、今のところフィジカル(LP・CD)は出ていない。
◎ CHOKE ENOUGH(Because)OklouOklou(Marylou Maynie)は仏ポワティエ生まれのSSW、プロデューサー、DJ。Pommeの
〈les cours d’eau (Remix)〉、Flavien Bergerとコラボした
〈Toyota〉など、幅広く活躍している。Casey MQと共同プロデュースした1stアルバムはA. G. Cookが参加した〈Thank You For Recording〉、シンセ・アルペジオの〈Choke Enough〉、絵文字タイトルのインスト曲〈"(;´༎ຶٹ༎ຶ`)"〉、Bladeeとデュエットした
〈Take Me By The Hand〉、プロデューサー、SSWのunderscores(April Harper Grey)と共作・共演した〈Harvest Sky〉など、「E-Girlの美学で、Enyaをアップデートする。世界で最も魅力的なサイボーグに違いない」
(Pitchfork)と評される。全14曲・40分(CDは13曲目の後に1分51秒の無音部分があり、シークレット・トラックが収録されている)。ジュエルケース仕様、歌詞ブックレット(20頁)入り。FKA twigsとコラボした新曲〈viscus〉やリミックスなど、全8曲を収録したLP
《Choke Enough (Expansion Pack)》が10月にリリースされた。
◎ CANCIONERA(Sony)Natalia LafourcadeメキシコのSSWナタリア・ラフォルカデ(Natalia Lafourcade)の10thアルバムは《De Todas Las Flores》(2022)と同じく、Adan Jodorowskyとの共同プロデュース。アルバム・タイトルはスペイン語の 「歌」(cancion)に女性形の接尾辞「-era」を足した造語で「歌姫」の意味。彼女の分身(アルター・エゴ)という意味合いもある。18人のミュージシャンと共にアナログテープにライヴ録音(一発録り)された。ストリングスとEmiliano Dorantesのピアノ、Abraham J. Saenzのフルート、彼女のギターによる〈Cancionera〉、テノール歌手のIsrael Fernándezとデュエットしたボレロ〈Amor Clandestino〉。
〈La Bruja〉(魔女)はガット・ギター弾き語りに、Soundwalk Collective(現代音響芸術集団)の音響デザインを加味した神秘的なソン・ハローチョで、メキシコの伝統曲に新しい歌詞を付けて歌っている。全14曲・76分(LPは全12曲・66分。CDには〈Amor Clandestino〉と〈Cancionera〉のアクースティック・ヴァージョンが追加収録されている)。デジパック仕様、歌詞ブックレット(12頁)付き。
◎ ANIMAL*(Bayonet)Mei Semones芽衣シモネス(Mei Semones)は米ミシガン生まれ、NYブルックリンを拠点とするSSW。アルバムのタイトルが 「Animal」 のローマ字綴りになってるように、ドングリ(Donguri)、ダンゴムシ
(Dangomushi)、ザリガニ(Zarigani)など、曲名や歌詞にも日本語が入り混じっている。祖母も勧めでピアノを習っていたが、11歳でギターに転向し、高校時代はジャズ・コンボのギタリストとしての経験を重ねて、バークリー音楽大学に進学した。3枚のEP《Tsukino》《Sukikirai》(2022)、《Kabutomushi》(2024)を在学中、卒業制作、卒業後にリリース。ボサノヴァ、サンバ、ジャズ・スキャット、グランジ、マスロックの森をヴァージニア・ファーのように駆け抜ける。森の仲間たちを描いたシュールな〈Donguri〉はレオノーラ・キャリントンの掌篇 「デビュタント」 の語り手、動物園のハイエナだけが唯一の友達である少女が思い浮かぶ」
(Pitchfork)とレヴューされる。〈Rat With Wings〉をイメージしたカヴァ・イラスト、天使の白い翼が生えたネズミの後ろ姿を描いたのは日本人の母親(Seiko Semones)。全10曲・38分。デジパック仕様、6つ折り歌詞・ポスター付き。
◎ INSTANT HOLOGRAMS ON METAL FILM*(Duophonic)Stereolab2009年4月に活動休止、2019年2月に再結成したステレオラブ(Stereolab)のニュー・アルバムが15年ぶりにリリースされた。
《Not Music》(2010)は《Chemical Chords》(2008)の未発表音源だったので、実質的には17年ぶりとなる。レティシア・サディエール(Laetitia Sadier)の無気力な低温ヴォーカルに、Xavi Muñoz(ベース)とJoe Watson(キーボード)、Marie Merlet(Monade)のバック・ヴォーカル。2002年に交通事故で亡くなったMary Hansenの不在を容易に埋められないのは彼女の姪Molly Readが〈Vermona F Transistor〉にゲスト参加していることからも想像される(
「bandcamp」 のプロフィール ・フォトには笑顔のMary Hansenが写っている)。Marie Merletがバック・ヴォーカルの〈Aerial Troubles〉、6拍子のインスト〈Immortal Hands〉、シンセ・アルペジオのインスト〈Electrified Teenybop!〉など、全13曲・60分、3連綴り歌詞カード付き。
「オフィシャル・サイト」 で、クロスワード・パズルや文字探しゲームを愉しめる。
◎ EGO DEATH AT A BACHELORETTE PARTY*(Post Atlantic)Hayley Williamsヘイリー・ウィリアムス(Paramore)の3rdソロ・アルバムはDaniel James(キーボード、ギター、プログラミング)との共同プロデュース。Hayley Williams(ギター、キーボード、ベース、ドラムス)に、メンバーのBrian Robert Jones(ベース、ギター、マンドリン、プログラミング)、Joey Howard(ベース)も参加。
「私が金持ちにしてやった数多の大バカ野郎たち」 と冷淡に蔑むトリップホップ風のオープニング曲〈Ice in My OJ〉は《Mammoth City Messengers》(2004)というコミックCDに収録された〈Jumping Inside〉のサビを引用している( 「OJ」 はオレンジ・ジュースの略)。アルバム・カヴァを象徴する
〈Glum〉はプリセット加工したヴォイスがJessica Prattを想わせる。Phoenixの〈Fior di Latte〉をサンプリングした〈Love Me Different〉、Bloodhound Gangの〈The Bad Touch〉を引用した〈Discovery Channel〉など、全20曲・67分。ジュエルケース仕様、歌詞ブックレット(28頁)付き。John Mayerが
「偉大なるオレンジ色の希望」(2007)と称賛した彼女のヘアカラーは美しいイエロー
「The Ego Remix Set」 に染まっている。
◎ A DANGER TO OURSELVES*(Rvng Intl. / Plancha)Lucrecia Daltルクレシア・ダルト(Lucrecia Dalt)は南米コロンビア・ペレイラ生まれ。「メデジン大学で地質工学を専攻し、卒業後は地質技師として土壌を検査する研究所や地質学者のチームで」 エンジニアとして働いていたという。その傍ら独学で音楽活動を始め、バルセロナ、ベルリン在住を経て、アメリカ南西部に移住している。7thアルバムはDavid Sylvianとの共同プロデュース。ダルトがスペイン語で歌い、シルヴィ庵が英語で語る〈Cosa Rara〉。Camille Mandokとスペイン語でデュエットした
〈Caes〉。Juana Molinaとコラボして英語で歌った〈The Common Reader〉など‥‥邪悪な魔女みたいに不気味で攻撃的なモノクロ・カヴァ(ポートレイトを撮ったのは写真家・藤井ユカ)はコロナ禍にリリースされたLingua Ignota(Kristin Hayter)の
「真珠マスク」(Sinner Get Ready 2021)やZola Jesusの
「チョコまみれ」(Stridulum 2017)のカヴァ・ポートレイトを想起させる。全13曲・44分。見開き紙ジャケ仕様、国内盤
(Plancha)は歌詞・対訳付き、ボーナス・トラック2曲を収録。
◎ BLEEDS*(Dead Oceans)Wednesdayノースカロライナ・アシュビルで結成されたインディ・ロック・バンド、Wednesdayの6thアルバムは離脱したMargo Schultzに代わって、Ethan Baechtold(ベース)が新加入。Karly Hartzman(ヴォーカル、ギター)との6年間の恋愛関係を解消したMJ Lenderman(ギター)はレコーディングに参加するが、今後のツアーには帯同しないという。MJの新しい恋人はRachel Brown(Water From Your Eyes)だという。カントリーの
〈Elderberry Wine〉、MJLとデュエットした〈Phish Pepsi〉、グランジの〈Candy Breath〉、インディ ・フォークの〈The Way Love Goes〉、ハードコア・パンクの〈Wasp〉、カントリーゲイズの〈Carolina Murder Suicide〉‥‥ペダル・スティールと轟音ギターと南部ゴシックの奇妙な混在。カミラ・ムリナルチク
(Kamila Mlynarczyk)の描いた
「妖怪カヴァ・イラスト」 がキモ可愛い。全12曲・37分。見開き紙ジャケ仕様、歌詞は無記載。
◎ GETTING KILLED(Partisan / PIAS)Geeseギース(Geese)はNYブルックリンのインディ・ロック・バンドである。Foster Hudson(ギター)が離脱して、Max Bassin(ドラムス)、Dominic DiGesu(ベース)、Emily Green(ギター)、Cameron Winter(ヴォーカル、キーボード、ギター)の4人になった。4rdアルバムはKnneth Blume(Vince Staple、FKA twigs、IDLESなど)との共同プロデュ ース。トランペットを吹きながら、銃口を向けるEmily Greenの青空を背景にしたハレーション・カヴァが禍々しく、ワイルドなヴォーカルと騒がしいパーカッションのグルーヴが不穏な緊張感を強いる。「脳内に新しいグルーヴを刻印するインディ・ロック」 。「クルマの中に爆弾がある」(There's a bomb in my car)と絶叫する〈Trinidad〉、「戦時中は誰もが笑わなければならない / 誰もが踊りに行かなければならない」 と歌うファンキーで泥臭い〈100 Horses〉、ウクライナ合唱団のコーラスをサンプリングした〈Getting Killed〉など、全11曲・46分。見開き紙ジャケ仕様、曲目と歌詞は無記載(LPには記載されているようです)。
◎ LUX*(Columbia)Rosaliaスペイン・カタルーニャのSSWロサリア(Rosalia)の4thアルバムは全18曲・60分。「4つの楽章(Mov)に編曲されて、13の言語で歌われるオーケストラ・ポップ」(Pitchfork)である。ロンドン交響楽団、カタルーニャ合唱団と共演し、ウクライナ、日本、中国、イタリア、ラテン語などで歌う。「美貌なんて捨ててやる / 君に台無しにされる前に‥‥」 という日本語が突然耳に飛び込んで来て狼狽えちゃう〈Porcelana〉、ロサリアのオペラティックなヴォーカルとBjorkのヴォーカルに、Yves Tumorが 「僕を好きになるまで君をファックする」 というマイク・タイソンの激しい言葉を執拗に繰り返す
〈Berghain〉、メキシカン・ミュージックを演奏する米バンドYahritza Y Su Esenciaをゲストに迎えたワルツ〈La Perla〉、5拍子の〈Divinize〉、Estrella Morente、Silvia Pérez Cruzとコラボした〈La Rumba Del Perdón〉、Carminhoとデュエットした〈Memória〉など。歌詞ブックレット(12頁)付き、ジュエルケース仕様。デジタル配信は全15曲・49分と3曲少ないので要注意にゃん!
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2025年は 「スペイン、カタルーニャの新世代」(ミュージック・マガジン 2025年3月号)の予想が的中して、スペイン(語圏)音楽の年となった。2024年にリリースされた(入手したのは2024年末から2025年上半期)のRita Payes、Lucia Fumero、Magalí Datzira、Tarta Relena(デュオ)というスペイン・カタルーニャの女性たちに続いて、2025年もLucrecia Dalt(コロンビア)、Natalia Lafourcade、Silvana Estrada(メキシコ)、Juana Molina(アルゼンチン)など、スペイン語圏SSWによる注目アルバムが次々とリリースされた。極めつけは英語とスペイン語の歌詞にウクライナ、日本、中国、イタリア、ラテン語など13カ国語が散りばめられたRosalia(スペイン)の《Lux》(Columbia)で、唐突に発せられた母国語にドギマギしたリスナーも少なくなかったのではないかと想像するのは愉しい。彼女が言語によるダイバーシティ(多様性)を実践しているのだから。Juana Molinaの
《Doga》(Sonamos)のフィジカル・リリースが今のところLPだけなのは気懸かりです。 Antonio LoureiroやAlexandre Andresなどの新作も今年(2026)、フィジカル化するのかしら?
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A Danger To Ourselves
- Artist: Lucrecia Dalt
- Label: Rvng Intl.
- Date: 2025/09/05
- Media: Audio CD
- Songs: cosa rara / amorcito caradura / no death no danger / caes / agüita con sal / hasta el final / divina / acéphale / mala sangre / the common reader / stelliformia / el exceso según cs / covenstead blues

































