b ミシンと人形と蜘蛛男(books)カナダ出身、スコットランド・エディンバラ在住の作家カミラ・グルドーヴァによる初短篇集
『人形のアルファベット』(河出書房新社 2025)。シャーリイ・ジャクスンやアンジェラ・カーターを想わせるグロテスクでシュールな世界で、現実とは異なる社会体制になっていたりする。皆川博子の 「結ぶ」 とは対照的に、グレタが果物の皮を剥くように毛髪や皮膚を脱ぎ捨てる 「ほどく」。チョコレート工場で働く 「わたし」 が双子を産んでシングルマザーとなり、オオカミに変身する 「ネズミの女王」。大濱普美子の 「三行怪々」 よりも短い11文字の表題作 「人形のアルファベット」。ミシンのフレームに金色のペンキで 「ナイチンゲール」 という社名を書き入れる仕事をしている 「わたし」 と夫ポールと幼児ワクシーがシェアハウスから出てホームレスとなる 「ワクシー」。ミシンを改造した幻灯機が屋根裏部屋の壁にピエロ、天使、ミスター・マグノリアを映し出す「アガタの機械」。不気味な衣装店のオーナー、ヴォルフと結婚した 「わたし」 がSM蠟人形を展示した店に復讐する「蛾の館」 。8本足のクモ男がフローレンス(ミシン)に恋する 「蜘蛛の手記」 など、全13篇。
b アナログ異聞 2(music)LP(アナログ盤)の致命的な欠陥は内周へ行くほど音質が劣化することであると
〈アナログ異聞〉に書いた。中学生の時、A面1曲目はクリアな音なのに、次第に音がモコモコと籠って解像度が落ちて来ることに気づいた。子供の耳でもでも分かるのほどなのだから、数値的にも著しく劣化しているのだろう。素人リスナーや音楽評論家は兎も角、ミュージシャンは分かっていて、A面とB面の1曲目に一番良い曲を入れる。A・B面の最後は 「捨て曲」 だったという。CDなどの光学ディスクはLPとは逆に内周から外周へトレースするが、回転スピードは可変(最初は早く回り、次第に遅くなる)なので音質は均一である。「EL SUR」 の店主によると、最近はアナログ録音であっても一度デジタル変換してから(再度アナログ変換して)LP化しているという。そうならば 「CDの方が音は良いじゃん」 と言ったら、「当たり前じゃないか」 と返されてしまった。アナログ盤の方が音が良いと発言して憚らない音楽リスナーたちは一体何を根拠にしているのか。CDの最大高域特性は2万Hzまでと指摘する人がLPの音質劣化を聞き分けられないのは不思議です。
b 望都ストーリー(comic)『萩尾望都という物語』(ビジネス社 2025)は
『萩尾望都 紡ぎつづけるマンガの世界』(2020)の続編。女子美の客員教授として行なった5つの講演(2015~24)を纏めた講義録。内山博子(聞き手)との対話形式になっているので、学生向けや一般人への公開講座というよりもインタヴューに近い。両親の反対、編集者との攻防など、ファンには聞き慣れた逸話も再現されるが、リカちゃんがプレゼントした誕生日プレゼントを母親から突き返されたという 「イグアナの娘」(1992)のエピソードが実話(お店に返しに行った)だったのはショックだ。父親の本心を山岸凉子が代弁し、「ゲゲゲの女房」(NHK 2010)を見た母親が娘の仕事を理解したというけれど、両親がモーさまの作品を理解していたとは言い難い。九州の実家から遠く離れ、早く上京して竹宮惠子と同居した(蜜月は長く続かなかった)のが幸いした。「残酷な神が支配する」 を除き、「ポーの一族」 「トーマの心臓」 「百億の昼と千億の夜」 など、殆どの主要作品について画像を映しながら語る。デジタルとアナログを併用した作画工程を口絵(9頁)と巻末で 「秘密の花園」(1頁)を例に挙げて詳細に解説している。
b 文豪の犬と猫(books)『文豪と犬と猫』(アプレミディ 2025)は宮崎智之と山本莉会による 「往復書簡」。12人の日本作家(夏目漱石、内田百閒、志賀直哉、谷崎潤一郎、川端康成、森茉莉、幸田文、室生犀星、坂口安吾、三島由紀夫、遠藤周作、二葉亭四迷)に纏わる犬(宮崎)と猫(山本)のエピソードを交互に紹介して、日本文学を読み直し、「読み解く」。実は漱石が犬好きだったり、百閒が『贋作吾輩は猫である』を執筆していたり、志賀の 「駄犬」 クマが百閒のノラのように迷子になったり、谷崎が海外種(シャム猫やペルシャ猫)を好きだったり、川端が 「愛犬家心得」 という指南文を書いていたり、萩原朔太郎の『猫町』のモデルが下北沢だったというような発見がある。森鴎外の娘・森茉莉、幸田露伴の次女・幸田文に 「文豪」 という称号は相応しくない。猫好きの三島由紀夫を紹介するならば、
『日常生活の冒険』を書いた大江健三郎やワープロ 「文豪」 で執筆した安部公房なども登場させるべきだったのではないか。
b 帰って来たネコ町ナーゴ(cats)『ナーゴの猫町めぐり』(NHK出版 2004)から20年‥‥地中海に浮かぶ島、猫が丸まったように見える小国ナーゴ(NEARGO)は人間と猫が共存する理想郷である。口絵マップを見た時は復刊したのかと思ったが、
『ネコ町ナーゴの猫だより』(労働教育センター 2024)は新作描き下ろしだった。総面積44km
2、人口約2万人と22000匹の猫が共に暮らす 「猫町ナーゴ」 。アクセス、登録制度、「14世紀初頭にニャンベルク城を築城したニャンベル伯爵(1271~1331)と共に移り住んだ50匹余りの猫達がNEARGO CATのはじまりだ」 というナーゴの歴史、通貨、市役所の基金課が母体となった里親探し組織 「NEARGO & NEARGO」 ‥‥腹ペコの猫たちを連れてジョナス家に来る自由猫ブーツ、観葉植物や生花を齧ったり毟 ったりする悪戯盛りのムルムル、主人が習い始めたヴァイオリンを我慢して聴くミュート、スーツケースや鞄の中に入るのが好きなルアン、玄関のベルが鳴ると壁とドアの隙間に逃げ込む人見知りのフィリックスなど、猫たちと一緒に暮らして、日々観察している人でないと分からない38のエピソードが可愛い猫のイラスト(モーリーあざみ野)に添えられている。
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sknys-labex / 1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 / 10 / 11 / sknynx 1300
人形のアルファベット
- 著者:カミラ・グルドーヴァ(Camilla Grudova)/ 上田 麻由子(訳)
- 出版社:河出書房新社
- 発売日:2025/05/15
- メディア:単行本
- 目次:ほどく / ネズミの女王 / ゴシック協会 / ワクシー / 人形のアルファベット / 人魚 / アガタの機械 / サイ / 蠟燭受けの悲しき物語 / エドワード、死者を甘やかすなかれ / ハンガリー産イワシ / 蛾の館 / 蜘蛛の手記 / 訳者あとがき

萩尾望都という物語 〜女子美での講義 2 〜
- 著者:萩尾 望都
- 出版社:ビジネス社
- 発売日:2025/03/17
- メディア:単行本
- 目次:口絵 / はじめに / 親との葛藤から生まれた作品たち / フランス人が憧れる萩尾望都の世界 / 人はなぜ物語を必要とするのか / 物語を深めるキャラクターの描き方 / 萩尾望都が描く物語の世界 / あとがき(内山 博子)

萩尾望都 紡ぎつづけるマンガの世界 ~女子美での講義より~
- 著者:萩尾 望都
- 出版社:ビジネス社
- 発売日:2020/08/26
- メディア:単行本(ソフトカヴァ)
- 目次:はじめに / 宇宙・女性・漫画 / トランスジェンダーのキャラクターは、どこから生まれてくるのか / 美術と漫画 歴史と漫画 / 萩尾望都さんへの10の質問 / 好きなことを一生やり続ける力 / あとがき

文豪と犬と猫 偏愛で読み解く日本文学
- 著者:宮崎 智之 / 山本 莉会
- 出版社:アプレミディ
- 発売日:2025/06/28
- メディア:単行本
- 目次:夏目漱石 「猫」 ではない大文豪の真実 / 内田百閒 ノラ帰らず、涙目の日々 / 志賀直哉 「駄犬」 呼ばわりしていたのに / 谷崎潤一郎 私は思い通りに使われたい / 川端康成 涙をぽろぽろ流して泣く犬もいた / 森茉莉 コカ・コーラの瓶の目から見た人間界 / 幸田文 動物のからだで一番かわいいところ / 室生犀星 人はいかにして猫に目覚めるか / 坂口安吾「堕落論」/ 三島由紀夫 天才が愛した美の獣 / 遠藤周...

ネコ町ナーゴの猫だより
- 著者:モーリーあざみ野 / バースデイ
- 出版社:労働教育センター
- 発売日:2024/03/29
- メディア:単行本
- 内容:地中海に浮かぶ、猫が丸くなったような形をした島 「ナーゴ」。ここではたくさんの魅力的な猫ちゃんたちが、猫を愛する人びとと共に平和に暮らしています。ナーゴの猫は町のいたるところで、無防備な姿でのんびり過ごしています。そんな愛すべき猫たちの物語をまとめました。
posted by sknys at 00:03| 東京 ☀|
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