2025年08月11日

折々のねことば 19



  • 折々のねことば sknys 181

    黒猫を飼い始めた。
    もともと彼が飼っていたアメリカンショートヘアを、私が引き取った形だ。名前はミミ、彼が考えた呼び方のまま。
    真下 みこと


  • 猫アレルギーの 「私」 はミミを家に入れてから、市販薬を飲んも鼻は痒いし、時々クシャミも出てしまう。トイレトレーとおやつ、おからの猫砂、キャリーバッグにクッションを敷いて持って来たが、世話が出来るかどうか自信はない。猫用の食器を用意するのを忘れていたので、代わりに普段使う食器に水を溜めてある。陶器の赤いシチューボウルは彼にビーフシチューを作った時に使った。《物音がしたので振り返ると、窓際でミミが餌を食べていた。ご飯はいつでも自由に食べられるようにしてある》‥‥会員制読書クラブMR C(Mephisto Readers Club)に公開された26篇を収録したショート・ショート『黒猫を飼い始めた』は表題から書き始めるルールが課せられている。「ミミのお食事」 から。
    2025・6・11


  • 折々のねことば sknys 182

    「写真撮られるのが嫌いな猫っていますよね」
    浅生 ハルミン


  • ご飯を食べ終わった白黒ネコが満足そうに口の周りを舌で、ぺろりぺろりと舐めていた。女猫仙人が舐め残しを見つけた。するとネコは上手に舌を翻して最後にペロンと一舐めした。著者(私)は 「ペロリアンだ」 と思わず声に出してしまう。「ペロリアンというのは口のまわりに付着した食べ物のかけらを舌でペロリと舐めること」。「私」 だけの非公式の呼び方だ。ペロリアンを撮ろうとしてシャッターを切ろうとすると、ネコはプイと余所見をしてしまう。顔はそっぽを向いているけれど、耳がこっちを向いているから分かる。本当は気になっているんでしょと思って話しかけようと顔を上げると、猫仙人はネコからカメラ目線をもらっていた。彼女の実力を見た気がしたという。『私は猫ストーカー』から。
    2011・12・11


  • 折々のねことば sknys 183

    このアクションは12月の終わり、大晦日近くに予定されていたから、おとり部隊はバニーガールや子猫ちゃんやサンタクロースの仮装をしていた。
    ナージャ・トロコンニコワ


  • ナージャたちはプーチン支持の超保守系ジャーナリスト、ミハイル・レオンティエフの所有するモスクワのレストラン 「オプリーチニク」 を襲撃して閉店に追い込んだ。オプリーチニクとは16世紀、イワン雷帝が推し進めた政策で、「政敵を刺し、叩き切り、首をくくり、熱湯を注ぎかけた」 恐怖政治のこと。彼女たちはヴィクトリー公園の裏通りで、ドアを溶接する練習をした。アクティビスト集団は二手に分かれた。1つは山ほどの金属をレストランのドアに溶接する工場労働者たちのグループ。もう半分は陽動作戦を担当した。レストランに入って酔っ払いの集団を演じ、警備係の注意を引く。おとり部隊は溶接作業の発する騒音をカムフラージュするために、凄い大声で合唱した。『読書と暴動』から。
    2025・6・26


  • 折々のねことば sknys 184

    もっともっと、そんな時間が続くと思っていたけど、
    「あたしちょっと見てくるにゃわ」
    というように、私の愛おしいみけちゃんは、ぴょんと天国へ行ってしまった。
    村上 しいこ


  • 1999年秋、アパート6階の部屋に迷い込んで来た三毛猫。縁側・庭付きの一軒家に引越してから1年後(2010年6月)、草叢の穴に嵌まって鳴いていた仔猫ピース(アメショー)を救い出す。2012年10月、生後1カ月の保護猫パレオ(白サバ)を村上家に向かい入れて、江戸後期築の古民家に引越した。猫の写真コンテストへ応募して、カレンダーに採用される。2021年8月、古民家で撮影した家族写真(夫妻と3匹)もカレンダーになった。2023年11月、インスタに投稿した動画を見た編集者からメールが来て、フォトエッセイ『25歳のみけちゃん』を出すことに‥‥猫好き児童文学作家の村上しいこ(かあちゃん)と三毛猫(みけちゃん)の四半世紀に渡る共生エッセイ『みけちゃん永遠物語』から。
    2025・7・1


  • 折々のねことば sknys 185

    おれたちは犬やネコにも見放されてしまっているのだ。
    椎名 誠


  • 千葉の荒くれ高校の柔道部に入った著者(ぼく)は同級の沢野ひとし、上島凱陸、沢野の友達・木村晋介と出会う。友人・キイバの運転するピックアップトラックが電柱に激突して、瀕死の重傷を負った交通事故と亀井神社に嫁いだ人妻・志乃さんとの情事は『続 失踪願望。』の書き下ろし 「さらば友よ!」 と重複している。不倫関係から逃れたい 「ぼく」 は小学校からの親友・高橋コロッケ君、沢野ひとし、木村晋介、凱陸君を誘って、江戸川区小岩のアパート克美荘(陽の差さない六畳一間)で共同生活を始める。湿って冷たい布団を中川放水路へ河原干しに行く。交代で見張っていたが、警官を除き誰も近寄って来ない。『哀愁の町に霧が降るのだ』のリメイク版『哀愁の町に何が降るというのだ』から。
    2025・7・6


  • 折々のねことば sknys 186

    娘がつけた名前は "バットマン"。ピッタリだ。マントを翻し不気味な笑い声を上げてサァ ーと去っていく、あの感じだ。
    大竹 しのぶ


  • 引っ越して来た町で行われている地域猫活動。さくらねこ(不妊去勢手術を受けている印)の存在さえ知らず、猫が苦手な人間(私)にとって、地域で育てるなんて余り嬉しくないのではとさえ思っていた。少し経つと庭に小さな白い猫が来るようになった。ヴェランダまで来た猫に息子が買って来たキャットフードを与えた。ある日、帰宅すると息子とチコちゃん(娘が名付けた)が仲良くオモチャで遊んでいた。その様子を遠くから見ている猫がいた。「お世辞にも可愛いとは言えず、少し怖くもあり、黒ぶちがまるでマスクをしているようだ」。ある日を境に来なくなってしまったチコちゃんの代わりに、バットマンが庭に来て、ご飯を食べるようになった。「まあいいか 439」(朝日新聞夕刊)から。
    2025・3・21


  • 折々のねことば sknys 187

    「どうかティットン・タットンへ、あなたの飼っている猫ちゃんへよろしく伝えてくれ。グリマルキンが死んだと」
    ウィリアム・ボールドウィン


  • 英語で書かれた最初の小説は『猫にご用心』(Beware The Cat 1553)だった。しかも単なる猫物語ではなく、又聞きの伝聞という何重もの〈入れ子構造〉になっている。友人宅に泊まっていたストリーマ氏は猫たちの鳴き声が煩くて眠れず、同じ屋根の下の人たちと猫についての雑談を始めた。使用人の1人が郷里に伝わっている話をする。ある人がカノックの森を馬に跨って通り抜けていると、薮から目の前に飛び出して来た猫が男の名前を二度三度呼んだ。怖くて黙っていたら、飼い猫に伝言を頼まれた。帰宅後、その出来事を妻と家族に話し終えると、聞き耳を立てていたティットン・タットンが 「なに、グリマルキンが死んだとな? さらばご機嫌よう、奥様」 と言って、家から出て行ったという。
    2025・9・1


  • 折々のねことば sknys 188

    猫に化けてサバトに現われる魔神を、英国の魔女たちはグリマルキンと呼ぶ。
    コラン・ド=プランシー


  • 《猫が魔女のお供をしてサバトに参加することは、よく知られている。魔女たち自身も、師と仰ぐ悪魔同様に好んで猫に化ける。ボゲ〔引用者註:ブルゴーニュ伯領サン=クロードの裁判官〕の著書にこんな逸話がある。ストラスブール近郊に住む農夫が三匹の大猫に襲われたが、逆に猫たちにしたたかに傷を負わせた。1時間後、農夫は裁判所に呼び出され、ストラスブールの三人の婦人に乱暴を働いた廉で入獄を命じられた。驚いた農夫は、自分が傷つけたのはただの猫だと抗弁し、明白な証拠を提示した。──猫の皮膚の一部をむしりとって持っていたのだ。農夫は釈放され、事件は悪魔の仕業によるものと断定された》という。1818年フランスで出版された抄訳『地獄の辞典』(第六版 1863)から。
    2025・8・11


  • 折々のねことば sknys 189

    幽霊は おまえの眼差しが 音をたてて
    ぶつかるところ まだそうしたところのようだ。
    けれども おまえの強力な
    この黒い毛皮にぶつかって 溶解してしまう、──
    ライナー・マリア・リルケ


  • 黒猫に魅せられた著者ナタリー・セメニークによる『魅惑の黒猫』は全身黒ずくめ、小口黒の大型本だったが、「ひみつの本棚シリーズ」 として再編集された『月夜の黒猫事典』はクッション製本、小口金の小型本は黒猫の金眼、「黄色い琥珀」(リルケ)のように光り輝く。中世の魔女狩りで火刑に処されたり、建設中の建物の壁に生きたまま塗り込められたり、高い塔から投げ落とされたり、ハロウィンで大量虐殺された猫たちの「黒歴史」や伝説や迷信などにスポットが当てられている。その一方で、作家や芸術家たちに愛された 「セレブたちの黒猫」、ポーの 「黒猫」(1843)を全文掲載した 「文学の中の黒猫」、「映像メディアの中の黒猫」 などは割愛された。「新詩集」(Nouveau Poemes 1907) から。
    2025・3・16


  • 折々のねことば sknys 190

    古代エジプトで 「9」 は神聖な数字(人生の9つのサイクル、過去、現在、未来‥‥)として重んじられていたため、猫には9つの生があるとされました。
    ドゥニーズ・クロール=テルツァーギ


  • クッション製本で掌に馴染む 「ひみつの本棚シリーズ」 第6集。小口金、カラー・イラストも満載。ボルヘスの『幻獣辞典』とは異なり、蜘蛛、イタチ、鹿、猫、コウモリ、馬、犬、フクロウ(ミミズク)、カラス、ヒキガエル、ハリネズミ、ヤツガシラ、クロウタドリ、ネズミ、狐、蛇など、実在する動物たちも登場するが、その生態や行動、その部位を煎じた秘薬や中世の魔術、古代の神話や伝説に基づく記述の多くは科学的な根拠に乏しい迷信である。牡ヤギ(悪魔の化身)、ドラキュラ、ケルベロス、竜、ルー・ガルー(狼男)など、想像上の幻獣に惹かれる。《また、魔術師によると、猫の目は 「月の満ち欠けに応じて、大きくなったり小さくなったりする」 》 という。『夢幻の動物事典』から。
    2024・9・6

                        *

    〈折々のねことば〉は朝日新聞朝刊に連載中のコラム 「折々のことば」(鷲田清一)のネコ版パロディです。初対面で撮れるネコもいれば、何度出合っても撮れないネコもいる。お互いに見つめ合っても逃げ出さないネコは撮れる可能性が高い。尻尾を翻して立ち去るネコの後を追う猫ストーカーは迷惑な存在なのかもしれません(ネコは人ストーカーのように命を狙われることは滅多にないけれど、ネコを戯れに毒殺したり殺傷する人間は鬼畜にも劣る断罪すべき 「殺猫者」 でしょう)。猫ストーカーの浅生ハルミンも 「猫仙人ミャミ子の恐るべき実力」 には及びません。「ミミのお食事」 はジーン・ウルフの「ソーニャとクレーン・ヴェッスルマンとキティー」を想わせたりします。『猫にご用心』(日本印刷出版 2025)は本篇だけでなく、ボーナストラックとして併録されている 「猫のアラビア夜話」(1881)や 「猫王グリマルキン伝より」(1910)も面白い。ちなみに、T**区立図書館のリサイクル本だった『地獄の辞典』(講談社 1997)の背表紙にはネコと思しき咬み痕が多々あります。これもグリマルキンの仕業でしょうか?

                        *
                        *


    猫にご用心

    猫にご用心

    • 著者:ウィリアム・ボールドウィン(William Baldwin)他 / 大久保 ゆう (編・訳)
    • 出版社:日本印刷出版
    • 発売日:2025/03/28
    • メディア:単行本(soyogo books))
    • 目次:まえがき / 猫にご用心(1553年)/ 猫の王様 伝承編「猫の王様」の噂を伝える偽作書簡の抜粋(1780年頃)/ 詩篇 猫の王(1800年前後)/ 猫の王様(1908年)/ 猫の王様 物語篇 / 猫のアラビア夜話──グリマルカン王(抄・1881年)/ 猫王グリマルキン伝より──『もふもふ民の伝記集』収録(1910年)/ 解説・訳者あとがき

    黒猫を飼い始めた

    黒猫を飼い始めた

    • 編集:講談社MRC編集部
    • 出版社:講談社
    • 発売日:2000/00/00
    • メディア:文庫(講談社文庫 こ 98-1)
    • 目次:妻の黒猫(潮谷 験)/ 灰中さんは黙っていてくれる(紙城境介)/ イメチェン(結城真一郎)/ Buried with my CAAAAAT.(斜線堂有紀)/ 天使と悪魔のチマ(辻 真先)/ レモンの目(一穂ミチ)/ メールが届いたとき私は(宮西真冬)/ メイにまっしぐら( 柾木政宗)/ ミミのお食事(真下みこと)/ 神の両側で猫を飼う(似鳥 鶏)/ 黒猫の暗号(周木 律)/ スフィンクスの謎かけ(犬飼ねこそぎ)/ ...
    ラベル:cats cradle catwords
    posted by sknys at 00:03| 東京 ☀| Comment(0) | c a t s c r a d l e | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
    この記事へのコメント
    コメントを書く
    コチラをクリックしてください