ω(オメガ)城の惨劇(講談社 2025)森 博嗣520

『オメガ城の惨劇』(2022)は番外編という位置づけだったが、文庫化された際に『ω城の惨劇』と改題されて、Gシリーズ後期三部作の完結編にスライディングしたという。しかし、どう考えても、このホームスチールはアウト(筋違い)だと思う。そもそも 『χ(カイ)の悲劇』と『ψ(プサイ)の悲劇』はエラリイ・クイーンへのオマージュとして想定されているので、『Xの悲劇』と『Yの悲劇』を読んでいる人には最初から犯人は 「ネタバレ」 だったのだ。『ω城の惨劇』がGシリーズの最終作なのかどうかの判断は『Zの悲劇』へのオマージュになっているかどうかです
AはアセクシュアルのA(リトルモア 2025)川野 芽生519

《私は 「恋愛」 をしたことがない。他者に恋愛感情を持ったこともない。誰とも性的な関係を持ったことはない。性的なニュアンスを伴う行為(たとえば、キスとか?)を他者としたこともない》‥‥中高一貫女子校から 、男子が8割という東大に進学した著者は大学1年生の冬、音楽系サークルの3つ上の先輩から告白されて、苦しみ、恐怖さえ感じたという。アロマンティック(Aromantic)、アセクシュアル(Asexual)を自認する歌人 ・作家、ロリィタファッション愛好家、下戸で甘党、インドア派、朝に弱くて、方向音痴、ASD(自閉スペクトラム症)、フェミニストのエッセイ
おやつにキャベツ(英明企画編集 2025)セルジョ・トーファノ518

風間賢二が 「私のベスト3」(本の雑誌 2026年1月号)に選んでいたイタリア演劇人、挿絵画家、作家による短篇集。河水や雨に濡れて甲冑が錆びついて、脱げなくなった無敵の隊長ウグッチョーネ・デッラ・スタニョーラの顛末。両親(イタリアとフランス)と2人の祖父母(スペイン、ドイツとイギリス、ロシア)が雇った6人の女性家庭教師から、6カ国語を学ばされた幼い息子アニチェートの受難 。ペロノスポリの王さまの一人息子トリッティコには三本の足があったなど、イタロ・カルヴィーノの 「まっぷたつの子爵」 や 「木のぼり男爵」 を髣髴させる奇想天外なナンセンス・ストーリーが愉しい
ドリーミング・ザ・ビートルズ(白水社 2025)ロブ・シェフィールド517

筋金入りのビートルマニアらしく、「ジョージの内面の神秘」 「ポールは僕たちの苦悩を測る概念」 など、36のテーマでアルバムや曲、4人のキャラクターを掘り下げ、解散後もフォローしている。〈I Am the Walrus〉の歌詞 「ググーグジューブ」(Goo goo goo joob)が『フィネガンズ・ウェイク』のモジリだったり、〈My Love〉は〈Something〉に嫉妬したマッカの最悪曲だとか、新たな発見や意見も散見される。隠れた暗号メッセージが文中の端々に仕込まれているので、ニヤリとすること多し。ハンター ・デイヴィスの『ビートルズ』などを読んでおけば、愉しさが倍増します
今日もネコ様の圧が強い(KADOKAWA 2025)うぐいす歌子516

SNSで人気になっている猫マンガ 「キジネコ様」 が描き下ろし(70頁)を加えて単行本した。同居カップル、金之助とスミレ家の飼い猫2匹が2人に毒を吐く。キジネコ様は《とても好戦的なお方。お触りはほぼ不可能。活発なご性格。高いところに登ったり、物を壊したりするのがお仕事》。クロネコ様は《お顔は怖いが、本当は少々臆病。おやつが好きすぎる。物静かで、キジネコ様とは喧嘩しがち。部屋は別々に暮らしている。元野良猫さんで、人間の家には来たばかり》。同じ絵をコピーして、トリミングする使い回し手法(手抜き?)が少し鼻につくけれど、続編も出るそうです
猫の刻参り 三島屋変調百物語拾之続(新潮社 2025)宮部 みゆき 515

神田三島町の袋物屋三島屋の次男・富次郎は二代目聞き手。絵師・花山蟷螂に弟子入りする一方で、口入れ屋・灯庵から来た語り手の変わり百物語を黒白の間で聞き捨てる。蟷螂師匠が富次郎に課した枷は物語の肝を聞き定めて煮詰めた一枚の看板絵を描くことだった。「上品の大年増の来客」 は母方の祖母おぶんが打ち明けた怪異譚を語る。17歳の時に瘧(熱病)に罹 って、顔の左半分が痺れる後遺症に傷心し、縁談も壊れて失意の余り首吊り自殺しようとした孫娘お文に語ったのは 「祖父親子三人の悪口」 と 「懲らしめ」 だった。猫神様が自ら身を焦がして祖父(放蕩息子)の舌を抜く
言の葉三昧(朝日新聞 2003)柳瀬 尚紀514

朝日新聞の夕刊(毎週木曜日)に4年間掲載されていた 「慣用句、諺、成句、季語、話題の用語など、言葉をめぐるエッセイ」 の後編。「続猫舌三昧」 とか 「猫舌三昧 II」 という表題にならなかったのは菊地信義(装幀)の計らい。「あとがき」 によると、Kotonoha → Ahonotok → 阿呆のtok(talkのピジン英語)という意味が隠されていたのだ。新聞と同じレイアウト(縦19字)を再現することで表われるメッセージなどの裏仕掛けも愉しい(大江健三郎への暗号は解読出来なかった)。半猫人・語呂つき翻訳家が綴るヤナセ語(ゴロ合せ、造語、駄洒落)の中に愛猫トロが顔を出す
うぐいす歌子の御ねこ日記(玄光社 2025)うぐいす歌子513

元海上自衛官という異色のイラストレーター・漫画家によるネコ画集・マンガ。「靴下子ねこ」 「杏子ちゃん」(ラガマフィン)、「ねこカフェ」(うめちゃん、ずん、むっく兄弟)、「旅先で会ったねこたち」 「スケッチ集」 「おまけ」‥‥作者のコメントは冷静沈着で、御ねこ族の独白は冷淡で毒がある。美大で日本画を学んだというモフモフした 「和のテイスト」(洋猫も和猫に見える)は猫画家ヒグチユウコ、町田尚子、石黒亜矢子にはない強み。「ねこのなんちゃって御札」 には妖気が漲る。手描きだと思われるが、同じ猫の絵をトリミングして再利用しているのでデジタルも併用か?
10月はたそがれの国(東京創元社 2024)レイ・ブラッドベリ512

第1短篇集『闇のカーニヴァル』(1947)から15篇を再録し、新たに4篇追加した第5短篇集(1955)。自分の中の骸骨に怯える 「骨」、巡回サーカスの見世物小屋で購入した、漿液に中に青白いものが浮かぶ 「壜」、両親が赤ん坊に殺される 「小さな暗殺者」、農夫が老人から呪われた農園を遺贈される 「大鎌」など、SFというよりも怪奇幻想(ホラー)色が濃いので、後味は良くない。背中に緑の翼が生えた 「アイナーおじさん」(《一族》もの第2作)、葬儀屋に持ち去られた死体を取り戻す 「ある老女の話」 は愉しい。「みずうみ」 「集会」 「びっくり箱」 は萩尾望都がコミック化した
静かに生きて考える(KKベストセラーズ 2024)森 博嗣511

「BEST T!MES」 に隔週連載していたエッセイ集(40篇)。静かな森の中の家にスバル氏(奥様、あえて敬称)、2匹のシェルティ犬と暮らすシンプルな生活。「六月から十月の五カ月がいちおう夏」で、暑さは 「最高でも二十五℃くらい」 の避暑地(軽井沢?)で、一周500m以上ある庭園鉄道(欠伸軽便鉄道)を毎日運行している。著者の意見には同意するところもしないところもあるが、論理的に思考しているので理解は出来る。但し、このライフスタイルには人並み以上の経済力が必要で、誰もが実行可能なわけではない。溜まった本を保管する地下倉庫があるのは羨ましいけれど
世界ネコ歩き ヨーロッパの空の下(クレヴィス 2025)岩合 光昭510

コロナ禍で日本国内に足止めされて、隔靴掻痒の思いだった岩合さん。漸くコロナが明けて、欧州ロケへ出張った。「ネコ歩きヨーロッパ編」 は国・地域別ではなく、「はじまりの朝」 「ひかりの昼」 「ぬくもりの夜」(夜間のフラッシュ撮影はしないので、夜というより夕暮れ時)という1日の時間の流れに沿って構成されている。久しぶりの海外だったからか、ネコたちも凛々しくて、撮影にも気合が漲っているように感じられる。表紙はスパーダ宮 「遠近法の間」 を背にするローリー(イタリア、ローマ)、裏表紙は山荘で暮らすトム(スイス、ヒンティスベルク)
石の扉(国書刊行会 2025)レオノーラ・キャリントン509

メキシコに亡命した英シュルレアリスム画家の中・短篇集。短篇集『七頭目の馬』の15篇に、「砂の駱駝」 「グレゴリー氏の蝿」 「ジェミマと狼」、中篇 「石の扉」(仏語版とは異なる)を追加した日本独自編集版(13篇は本邦初訳)。夢のように不可思議で不気味な魔術的世界を描いているので面食らうが、猫、猪、兎、馬、羊、牛、鼠、蝿、駱駝、狼、ハイエナなどが登場する物語は彼女の絵画を鑑賞するように映像化して読み解ける。訳者 ・野中雅代の詳細解説と付記(65+7頁)、キャリントンのイラスト5葉添え。表紙は〈チキ、あなたの国〉(Chiki, ton pays 1944)、筒函入り
見晴らし台(ステュディオ・パラボリカ 2025)川野 芽生508

この11年間(2012~2023)に発表した評論、書評、選書、往復書簡などを収録したエッセイ集成。「短歌について」 は31文字の定型現代詩のような奥深さ、「本について」 は山尾悠子の『ラピスラズリ』『夢の棲む街』『山の人魚と虚ろの王』などを評じる。選書リストにはロード・ダンセイニ、レイ・ブラッドベリ、シャーリィ・ジャクソン、皆川博子などの著作が並ぶ。佐藤弓生、鳥居萌、山尾悠子との往復書簡も読み応えがある。東大の合格発表を見に行った朝、『百年の孤独』を読み耽って乗り過ごし、丸ノ内線の終点(池袋)に辿り着いてしまったというエピソードが笑える
ネコ町ナーゴの猫だより (労働教育センター 2024)モーリーあざみ野507

『ナーゴの猫町めぐり』(NHK出版 2004)から20年‥‥地中海に浮かぶ島、猫が丸まったように見える小国ナーゴ(NEARGO)は人間と猫が共存する理想郷である。総面積44km2、人口約2万人と2万2千匹の猫が共に暮らす 「猫町ナーゴ」 。「14世紀初頭にニャンベルク城を築城したニャンベル伯爵(1271-1331)と共に移り住んだ50匹余りの猫達がNEARGO CATのはじまり」 だという。市役所の基金課が母体となった里親探し組織 「NEARGO & NEARGO」。猫と一緒に暮らして、日々観察している人でないと分からない38のエピソードが可愛い猫のイラストに添えられている
萩尾望都という物語(ビジネス社 2025)萩尾 望都506

『紡ぎつづけるマンガの世界』(2020)の続編。女子美の客員教授として行なった5つの講演(2015~24)を纏めた講義録。内山博子(聞き手)との対話形式になっているので、講座というよりもインタヴューに近い。ファンには聞き慣れた逸話が再現されるが、リカちゃんがプレゼントした誕生日プレゼントを母親に突き返されたという 「イグアナの娘」(1992)のエピソードが実話だったのはショックだ。九州から上京して竹宮惠子と同居した(蜜月は長く続かなかった)のが幸いした。デジタルとアナログを併用した 「秘密の花園」 の作画工程を口絵と巻末で詳細に解説している
人形のアルファベット(河出書房新社 2025)カミラ・グルドーヴァ505

カナダ出身、スコットランド・エディンバラ在住の作家による初短編集。ミシンとマネキン人形と蜘蛛男‥‥シャーリイ・ジャクスンやアンジェラ ・カーターを想わせるグロテスクでシュールな世界で、現実とは異なる社会体制になっていたりする。皆川博子の 「結ぶ」 に対して、グレタが果物の皮を剥くように毛髪や皮膚を脱ぎ捨てる 「ほどく」。チョコレート工場で働く「わたし」 が双子を産んでシングルマザーとなり、オオカミに変身する 「ネズミの女王」。大濱普美子の 「三行怪々」 よりも短い11文字の表題作、8本足のクモ男がフローレンス(ミシン)に恋する 「蜘蛛の手記」 など13篇
猫にご用心(日本印刷出版 2025)ウィリアム・ボールドウィン 他504

英語で書かれた最初の小説(Beware The Cat 1553)はネコだった。単なる猫物語ではなく、又聞きの伝聞という何重もの〈入れ子構造〉になっている。猫たちの鳴き声が煩くて眠れず、猫についての雑談が始まる。使用人の1人が郷里に伝わっている話をした。ある人がカノックの森を馬に跨って通り抜けていると、薮から飛び出して来た猫が 「グリマルキンが死んだ」 と飼い猫に伝えてくれと人語で話す 「ストリーマ氏の語り第一部」。秘薬を生成して猫語を解するようになる 「第ニ部」。猫たちの夜の集会を盗み聞きする 「第三部」 。「猫の王様」 伝承編(3篇)と物語編(2篇)を併録
25歳のみけちゃん(主婦の友社 2024)村上 しいこ503

2023年11月インスタに投稿した動画を見た編集者からメールが来て、出版することになったフォトエッセイ。1999年秋、アパート6階の部屋に迷い込んで来た三毛猫(あたし)と母(かあちゃん)の視点で、村上家の日常が交互に描かれる。縁側・庭付きの一軒家から、江戸後期築の古民家へ2度の引越し。草叢の穴に嵌まって鳴いていた仔猫ピース(アメショー)と生後1カ月の保護猫パレオ(白サバ)を村上家に向かい入れる。死後に出版された『みけちゃん永遠物語』(小学館 2025)は猫好き児童文学作家と愛猫が四半世紀に渡って三重弁と猫語(?)で会話する共生エッセイ
ミロのことば 私は園丁のように働く(平凡社 2025)ジュアン・ミロ502

「私は園丁のように働く」(Je travaille comme un jardinier 1963)はパリの20世紀国際芸術協会から出版された限定アートブック(145部)。1964年、英テートギャラリーで開催された個展のカタログとして英仏2カ国語のテキストで再版された。1958年11月、仏芸術家・作家・批評家イヴォン・タイヤンディエがインタヴューしたミロの話し言葉を書き起こしたモノローグである。瀧口修造、飯島耕一、東野芳明、大岡信などがミロを紹介・研究してきたが、本書だけは 「邦訳版の書籍になっていなかった」 という。訳者・阿部雅世の 「解説」 と 「あとがきによせて」 は胸熱!
哀愁の町に何が降るというのだ。(本の雑誌社 2025)椎名 誠501

『哀愁の町に霧が降るのだ』(1981)のリメイク版。千葉の荒くれ高校の柔道部に入った著者(ぼく)は同級の沢野ひとし、上島凱陸、沢野の友達・木村晋介と出会う。友人・キイバの運転するピックアップトラックが電柱に激突して、瀕死の重傷を負った交通事故と亀井神社に嫁いだ人妻・志乃さんとの爛れた情事は『続 失踪願望。』(2024)の書き下ろし 「さらば友よ!」 と重複している。不倫関係から逃れたい 「ぼく」 は小学校からの親友・高橋コロッケ君、沢野ひとし、木村晋介、凱陸君を誘って、江戸川区小岩のアパート克美荘(陽の差さない六畳一間)で共同生活を始める
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