
石森 章太郎『酔いどれ探偵鉄面クロス』
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197X年の師走、東京を中心に全国の銀行や資産家の邸宅を襲って金品を奪う神出鬼没の怪盗 「鉄面クロス」 が不景気風(インフレ・エンザ)の吹きまくる世間を騒がしていた。刑事の十文字剛が帰宅すると、息子は昼間から酒を飲んで酔いどれている。十文字元は警視庁捜査第二課で、その将来を嘱望されていた最年少の敏腕刑事だったが、クルマで逃走する「鉄面クロス」 を追跡中に(クロスの撒いたマキビシによって)交通事故を起こして行方不明になっていた。半年前に帰って来た十文字が 「毎日酒を飲んではゴロゴロしているグータラ息子」 に変わってしまったのには秘密があった。クルマから飛び出して気絶していた十文字元に怪盗クロスが鉄仮面を被せたのだ。自分の身代わりとして 「怪盗鉄面クロス死す!」 という報道を演出するために。意識を回復した十文字は子供の頃から柔道や空手を教わっていた師匠・修羅大道の棲む山の中の住居へ相談に行く。
鉄仮面を一生外せないことを知って意気消沈する十文字元の前に修羅先生の一人娘の里子が現われた。彼女が結婚した神月信次(神月整形病院院長)は修羅道場に通って共に修行していた "好敵手"(ライヴァル)だった。夫に作らせたという精巧な人面を被ると、十文字は元の素顔に戻った。「鉄面クロス」 の出没しそうなところを1カ月間、見張っていた十文字元は銀行の屋上から壁づたいにロープで降りて来たクロスと対峙する。人面を脱いで格闘した相手の身のこなしから、十文字は怪盗クロスを正体に気づく。真っ二つに割れた鉄仮面から神月信次の素顔が顕わになる。神月は告白する。病院を建てるための金と里子が欲しかったこと、結婚後も里子が忘れずに愛し続けていた十文字が憎くて鉄面を着けたこと、正体を感づかれた里子に脅迫されて人面を作ったことを。神月が絶命して事件は一件落着したけれど、十文字の心は晴れなかった。数日後、妻・里子の自殺が新聞の片隅に載った。
ガソリンスタンド王の甲坂源三が "黄金の破壊者"(ゴールド・デストロイヤー)に殺害された。屋台で酒を飲んでいる十文字元は店主から手渡られた徳利を取り損ねて腕が当たり、義手ではないかと疑われる。説教をしていた十文字剛が息子に "黄金の破壊者" の事件ファイルのコピーを見せていると、ラーメン店 「来々軒」 のバカヤロ(ミッちゃん)が出前を持って来た。"黄金の破壊者" は黄金の仮面で顔を隠し、右手腕に仕込まれた黄金の銃と黄金の銃弾で被害者の額を撃ち抜く。酔い潰れた十文字は店主の肩を借りて屋台を後にした。甲坂邸に "黄金の破壊者" が現われた。"黄金の破壊者" は生前の甲坂源三から、娘・京子の婚約者・田中浩の殺害を依頼されていたのだ。甲坂源三を殺したのは "黄金の破壊者" ではなく、結婚を反対されていた秘書・田中浩の仕業だった。京子を人質にして居直った田中浩は "黄金の破壊者" が商売敵を次々と殺していた 「甲坂源三専属の殺し屋」 だったことを暴露する。
窓ガラスを破壊して室内に侵入した十文字元が田中浩に手刀を当てて甲坂京子を救うと、 "黄金の破壊者" は婚約者の額を撃ち抜いてしまう。逃走する殺し屋の跡を追い駆けた十文字は屋台に辿り着く。「酔いどれ探偵鉄面クロス」 と名乗った十文字に主人が告白する。戦争で片腕を失った男を拾って世話してくれたのが甲坂源三だった。黄金の銃つき義手の "黄金の破壊者" となったことを。田中と同じように甲坂を憎んでいたが、あの若造は生かしておけなかった。京子は小さい頃に育てられず甲坂に養育を頼んだ実の娘だったから。「あの娘の父、甲坂は‥‥ただのあわれな犠牲者で‥‥わるいのは田中と "黄金の破壊者" だけにしておいてやりたかった」 と言い遺し、甲坂のガソリンスタンドを銃撃して自爆した。屋台を譲られた十文字は 「ほんとうの "黄金の破壊者" は‥‥いつだって──その黄金を手にいれるためにおおぜいの人間の生活を破壊する金持ちどもだったんだ‥‥!!」 と述懐する。
銀行前の車道を暴走族のバイクが大きな騒音を立てながら爆走する。彼らが出没してから10日間、午前0時に走り出して、午前1時に消え去る。十文字元の屋台に突貫工事をしているという2人の作業員が来た。翌日、いつものように出前を差し入れたミチが来々軒に戻ると、父親の十文字剛が来店していた。停車中の不審車を点検していた十文字をクルマ泥棒だと疑った暴走族の女リーダーがバイクで煽動してスパナで殴る。午後12時55分、クルマの下のマンホールから出て来た2人の作業員が車内に銀行から盗んだ金を運び込む。運転席で待機していた鉄面クロスが彼らの悪事を暴く。暴走族の騒音で突貫工事の音を誤魔化しながら、銀行金庫室の真下までトンネルを掘っていたことを。クロスの耳は増幅聴音器になっていた。女リーダーがバイクをクロスの胸に衝突させて仲間を助けようとするが、作業員は彼女を轢いて逃げ去った。クルマを乗り捨てて逃走した強盗犯をクロスの乗ったバイクが追撃する。
ロボット学者の田所教授が行方不明になり、ロボット工学者の金丸所長が殺される事件が起きた。西山工業用ロボット製作所の所長が人型ロボットに殺害される。「来々軒」 の2階に下宿して、「十文字探偵事務所」 の看板を出した十文字元の許へ初めての依頼人が訪れた。鈴原良子は姉の警護を頼むが、ロボット工学者の姉は護衛を断る。「鈴原ロボット工学研究所」 の前に屋台を出して見張る十文字。「来々軒」 のミッちゃんが夕刊に載っていたロボットの強盗事件を寝ていた十文字に報せる。ある夜、ロボットが現われて、張り込んでいた十文字を襲う。もう一体のロボットが研究所内で鈴原の首を絞めていた。ロボットを破壊した十文字は先に倒した後の血痕を見つけて不審に思う。出前持ちに変装して入り込んだ十文字は鈴原が隠し扉を開けて降りて行った地下室に忍び込む。そこでは世界最高最新のヒューマロイドが完成間近だった。鈴原博士は拉致した田所博士たちに仮面と鎧を着け、電気ショックで操っていたのだ。操りロボットと化した工学者が十文字を襲い、逆上した田所博士が鈴原を絞殺する。十文字は真相を隠すために鉄面クロスとなって、騒ぎに気づいた良子から逃げ去る。
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- 「石ノ森章太郎萬画大全集 2-12」(角川書店 2006)をテクストに使いました。「本の通販ストア」 終了のため、萬画大全集版はデジタル大全(kindle)にリンクしました
- 読みやすさを考慮して、引用文の一部に句点(。)と読点(、)を挿入しました
- 50年前(1975)も 「インフレ・エンザ」 だったのね。記憶にありませんが^^;

酔いどれ探偵鉄面クロス ── 石ノ森章太郎萬画大全集 2-12
- 著者:石森 章太郎
- 出版社:角川書店
- 発売日:2006/05/31
- メディア:コミック
- 目次:二つの顔の怪盗出現!! / 黄金の破壊者 / 死の女の巻 / 午前0時の雷鳴の巻 / 奇機怪獣!ロボット殺人軍団の巻 / イラストコレクション
ラベル:comic Ishinomori








緑の首輪がいいアクセントですね。
石ノ森章太郎、昔の話なのに、今のハイテクで違和感なく行けそうな感じ。
すごいですね。
外ネコの個体数が減って、なかなかニュー・フェイスを撮れなくて‥‥。>﹏<。
「鉄面探偵ゲン」 という続編もあります。
「ロボット刑事」 は庵野秀明が映画化してくれるかもしれません。