「なんておかしな夢を見たんだ」 三男は小さな犬に話しかけた。「人間みたいに歩きまわる猫とか、温室とか。雪の中でおまえを追いかけもした」 / 「あら、でも夢じゃなかったのよ」 という女の声がして、耳元で軽い咳払いが聞こえた。三男がふり返ると枕の反対側から、ベッドシーツよりもさらに白い、美しい白猫がエメラルドグリーンの目でこちらを見ていた。/「どうか怖がらないで。吹雪の中をよく私たちのところまでたどり着けたわね。犬たちのこともどうぞ安心して。みんなきちんと世話してるから」 / 三男は起きあがった。「ここはどういう場所なの? それと、きみはどういう猫?」 / 「いたって普通の猫よ」 白猫はつつましやかに答えた。「どんな仕組みで私が口をきけるのかなんて本当に、たいして興味深いものじゃないし、どのみち自分でもよくわかっていないの。言えるのは、私と仲間たちはもう何年も前からここで暮らしてるということぐらい。サティバ大麻とインディカ大麻の栽培業者として成功して、独自の技術による交配種もいくつか育ててる。ほら、コロラド州では大麻は合法になってるでしょ。私たちのブランド《白猫》はその効きの良さと強さで有名なの」
ケリー・リンク 「白猫の離婚」b 鳥羽耕史『安部公房 —消しゴムで書く—』女性週刊誌的には山口果林さんでしょうが、新潮社のPR誌 「波」 に連載されていたエッセイ 「周辺飛行」の中で、田中邦衛の演技を大絶賛していたことを憶えています。今年文庫化された
『飛ぶ男』と
『死に急ぐ鯨たち・もぐら日記』を読みました。「飛ぶ男」 はスプーン曲げの少年マリ・ジャンプ(腹違いの弟?)、「さまざまな父」 の父親は透明人間になったりしますが、未完なのが残念! 「もぐら日記」 は 「予想していた以上に難解な内容」 と著者自ら述べています。初めてワープロで書いた日本人作家らしく、エッセイやインタヴューは40年近く経 っても全く古びません。
by sknys (2024-11-04 14:01) b ミイ復活。凝りてない~愛知県美術館はシュルレアリスム絵画を所蔵しているんですね。レオノーラ・キャリントンは仲良しだったレメディオス・ヴァロの死後、半世紀以上も長生きしました。
『フリーダ・カーロ作品集』(東京美術 2024)によると、日本にあるのは裏表紙
〈死の仮面を被った少女〉は名古屋市美術館の所蔵。喧嘩したのか左頬が抉れて地肌が露出している白ネコがいましたが、見る見るうちに白い毛に覆われて怪我が治っちゃいました。ネコの自己治癒力の高さ・速さに驚きました。3階のヴェランダは危険がいっぱいにゃん! 駅のホームドアみたいな転落防止フェンスを設置しないと、枕を高くして安眠出来ませんみたいな。
by sknys (2024-11-07 12:01) b 黒猫の日ニューヨークは声をあげて笑った。それでも、イギリスの従兄であるチェシャ猫のように、体が消えたあとも〈猫〉のにやにや笑いは漂っていた。独房にいる老人の笑い顔ではなかった。あの老人は笑わない。
エラリイ・クイーン『九尾の猫』
もちろんマンハッタンを5カ月間、震撼させた連続絞殺魔はネコでも、老人でもありません(半ネタバレ?)。映画
「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」(2021)の監督ウィル・シャープは 「バスカヴィルの犬」
(The Hounds of Baskerville 2012)に、シャーロックとワトスンを軍事基地内に案内するイギリス陸軍兵士(ライオンズ伍長)として出演していたので、その頃から主演のベネディクト・カンバーバッチと親交があったのかも。Nick CaveがH・G・ウェルズ役でカメオ出演していたのは謎ですが。テイラー・スウィフトが 「子どもがいない猫好き女性」(Childless Cat Lady)と署名し、愛猫ベンジャミン・ボタン君を抱く写真を添えて、「悪ガキ」(brat)への支持を表明したのは痛快でした。Charli XCXの《brat》(Atlantic 2024)は
「年間ベスト・アルバム1位」 を驀進中!
by sknys (2024-12-13 18:50) b 馬場康夫《波の数だけ抱きしめて》「何のために生きているのかって、死ぬ時じゃないと分からないか‥‥‥」
中山 美穂『アタシと私』
ミポリンが小説を書いていたとは知りませんでした。アタシ(歌手・香音)と私(ミュージシャン)が 「天使」 になる夢物語。「‥‥人は生まれてきてまず最初に泣きます」 という一節はSt. Vincentのアルバム
《All Born Screaming》(Total Pleasure 2024)を想わせたりもしますが。元夫のガイダンスがあったのかしら?
by sknys (2024-12-16 21:57) b 2025年ご挨拶華龍さん、明けましておめでとうございます。教授の 「Opus」 はCDとBlu-rayでしょうか? チョー高いアナログ重量盤4枚組もあるそうですが。
「ブラジルディスク大賞2024」 で、Dora Morelenbaumのアルバムが一般投票4位、関係者投票2位に選出されました。マルケスは解説の筒井先生が 「読むべきである。読まねばならぬ。読みなさい。読め」 と力説していた
『族長の秋』が2月末に新潮文庫から出ます。一足早く引っ越した
「S**さん」 によると、Seesaaに移行すると同時に、元ブログが全部消えちゃうそうです。出来るだけ現存のSSブログ(旧ソネブロ)を延命させて、3月になったら引っ越そうかと思い直しました。
by sknys (2025-01-01 18:23) 『三行怪々』(河出書房新社 2024)は嵐山光三郎が 「私のベスト3」(本の雑誌 2025年1月号)に挙げていた怪猫本。「百文字病」 の変異株 「三行」(約60字)に感染した 「たけこのぞう」 の作家による超ショート・ショート200篇。「ミイちゃん、いつまでも一緒にいようねえ。私がそう呼びかけると、猫はうんと健気に頷き、長い尻尾を七本とも揺らした」 『九尾の猫』はミステリですが、これはホラーにゃん?
by sknys (2025-01-04 12:53) b 2024年ベストアルバム(暫定版)大好きなHalo MaudはGreg Saunier(Deerhoof)と4曲を共作・共同プロデュース(註:
〈ブラット・サマー(2024)〉を参照)。Charli XCXのリミックス・アルバムは《Brat》(+3曲)を同梱した2CD仕様で、タイトル、アーティスト、歌詞、レーベルなど、バーコ ード以外の全てが(横尾忠則の 「アート書評」 みたいに)反転した鏡文字になっています。16年ぶりのThe Cureは奮発して3枚組(2CD+Blu-ray)を購入。年末に入手したRita Payesの
《De Camino Al Camino》を入れられなかったのは残念。Cindy Leeのアルバムは2月にフィジカル・リリース(LP・CD)されます。
by sknys (2025-01-11 12:51) b 紅白歌合戦のB’z大晦日に帰宅したのが午後7時過ぎ。タイミングが良かったので、魔がさして(?)、数十年ぶりに紅白をラジオ(音声)で聴きました。ヴォーカル(稲葉浩志)の音量が小さかったのはマイク・トラブルだったのかな? NHKホールの観客が盛り上がった理由は分かりませんでした。それにしても、ヒップホップ系の日本語ラップは酷いなぁ。言いたいことを早口で捲し立てれば良いっていうものじゃない。中村とうようさんが嫌っていたラップにはフロウもライムも、メロディさえある。パリ五輪閉会式に降臨してカヴィンスキー(Kavinsky)の激ヤバ曲をThomas Mars(Phoenix)とデュエットしたアンジェル(Angele)さま。彼女が
〈Demons〉でコラボしたベルギー系コンゴ人Damsoの仏語ラップはカッコ良かったし(悪魔ダンスは小島よしお?)、英覆面ユニットSaultの
〈Free〉で披露したLittle Simzの高速ラップも感動的。ディオンヌ・ワーウィックの〈Walk On By〉(1964)をサンプリングしたDoja Catの
〈Paint The Town Red〉も悪魔崇拝は兎も角、律儀に韻を踏んでいました。
by sknys (2025-01-23 00:19) b 中世ルネサンスブックカフェ「テューア」「テルマエ・ロマエ」(ビームコミック 2008-13) は読みましたよ。妻リウィアに離縁されて落ち込んで、性的不能に陥ったルシウスが「金精まつり」の露天風呂から、金精大明神として出現する場面は最高でした。ポルトガル生まれの
「ベレン君」(ベンガル種)が昨年11月に他界したそうです。>﹏<。
by sknys (2025-01-29 22:46) b 2024年年間ベストアルバム(洋楽編)その2個人的な年間ベスト・アルバム10は 「暫定版」 でコメントしたので、国内外メディアの第1位を幾つか挙げておきます。
◎ Sophie - Sophie(Rough Trade)
◎ Cindy Lee - Diamond Jubilee(Pitchfork)
◎ Charli xcx - Brat / Brat and it's completely different but ...(The Guardian)
◎ Mannequin Pussy - I Got Heaven(out out / fka warszawa)
◎ Still House Plants - If I don't make it, I love u(ele-king)
◎ Asher White - Home Constellation Study(Monchicon)ラフトレの第1位はCD(LPは2枚組)を購入しました。Kitty Empire
(The Observer)は〈Intro (The Full Horror)〉を除き、「全てコラボレーションで、Sophie自身が歌った曲は1曲もない」 と書いていたけれど、第8位に選出しています。12月にフィジカル・リリースされたIglooghostの
《Tidal Memory Exo》(ele-kingの第9位)にボートラ2曲が追加されていたのは嬉しかった。
by sknys (2025-02-03 12:01) b EIGHT-JAM〈ハモリがスゴい名曲特集〉リタ・パイエス(Rita Payés)とシルヴィア・ペレス・クルス(Silvia Pérez Cruz)のデ ュエット
〈El Panadero〉に感涙しました。ガット・ギターは母親(Elisabeth Roma)、ストラトは旦那(Pol Batlle)、別撮りのトロンボーンはリタ本人(リトグリと同世代なのに、この落差には愕然としちゃう)。昨年末に入手したハードカヴァ仕様(36頁)のアルバム(CD)にはパンの 「レシピ・カード」 が封入されています。
by sknys (2025-02-19 12:18) b 歌川国芳展■中之島美術館『牡猫ムルの人生観』(東京創元社 2024)がメチャ面白かった。「名無し猫」 と同世代なのかと思っていましたが、E・T・A・ホフマン(1776-1822)は漱石(1867-1916)の90年前、歌川国芳(1798-1861)の20年前に生まれていたとは驚きです。2月に購入したFKA twigsとCindy Lee(Patrick Flegelの女装キャラ)のアルバムは2点で8千円超え!
元小枝さんのMIXテープ(Caprisongs 2022)に収録されていた
〈darjeeling〉のMVが可笑しい。そもそもパブの中年男が飲んでいるのは紅茶じゃなくて黒ビールでしょう。ヴォーグはMadonnaへのオマージュ(カウンターを手摺りする)なのかと思ったり?
なかなか踏ん切りがつかず、ブログの移行は3月にズレ込んじゃうかもしれません。
by sknys (2025-02-20 12:07) *
ブログ記事に付けた「外コメント」を纏めてみたら結構面白いかも?‥‥というアイディアから生まれた再録シリーズの第77集です。コメントは原則としてオリジナルのまま時系列順に転載。事実誤認(誤記)や誤字・脱字、改行の無効化、句読点や記号・顔文字の有無などを精査。内容の分かり難いコメントには補足説明(註)をして、コメントした元記事にリンクしました。過去3カ月月間(2024・12・1~2・28)に書いたものの中から、第三者がコメントだけ読んでも面白いものを中心にセレクトしています。「年間ベスト・アルバム10」 はCharli XCXの
「リミックス・アルバム」 が鏡文字だったことから着想〜反転して、戯れに
「裏ベスト・アルバム」 も選んでみた。
『白猫、黒犬』(集英社 2024)はグリム童話やノルウェーの民話、イングランドの伝承を現代的に改変した短篇集。アンジェラ・カーターの
『血染めの部屋』(筑摩書房 1992)はグロテスクだったが、ケリー・リンクの童話は 「スキンダーのヴェール」 がシャーリイ・ジャクソン・トリビュート
『穏やかな死者たち』(東京創元社 2024)に寄稿した短篇だったことからも分かるようにホラー色が濃い。
*
sknys comments #1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 / 10 / 11 / 12 / 13 / 14 / 15 / 16 / 17 / 18 / 19 / 20 / 21 / 22 / 23 / 24 / 25 / 26 / 27 / 28 / 29 / 30 / 31 / 32 / 33 / 34 / 35 / 36 / 37 / 38 / 39 / 40 / 41 / 42 / 43 / 44 / 45 / 46 / 47 / 48 / 49 / 50 / 51 / 52 / 53 / 54 / 55 / 56 / 57 / 58 / 59 / 60 / 61 / 62 / 63 / 64 / 65 / 66 / 67 / 68 / 69 / 70 / 71 / 72 / 73 / 74 / 73 / 75 / 76 / 77 / sknynx 1262
フリーダ・カーロ作品集
- 著者:堀尾 眞紀子
- 出版社:東京美術
- 発売日:2024/09/30
- メディア:大型本
- 目次:はじめに / フリーダの眼差し / 1907–1927 誕生と事故 / 1928–1938 出会いと結婚 / 1939–1949 折れた背骨と希望の木 / 1950–1954 生命万歳 / おわりに / フリ ーダ・カーロ年譜 1907-2054 / 掲載作品リスト / 参考・引用文献

白猫、黒犬
- 著者:ケリー・リンク(Kelly Link)/ 金子 ゆき子(訳)
- 出版社:集英社
- 発売日: 2024/10/25
- メディア:単行本
- 目次:白猫の離婚 / 地下のプリンス・ハット / 白い道 / 恐怖を知らなかった少女 / 粉砕と回復のゲーム / 貴婦人と狐 / スキンダーのヴェール / 謝辞 / 訳者あとがき

九尾の猫〔新訳版〕
- 著者:エラリイ・クイーン(Ellery Queen)/ 越前 敏弥(訳)
- 出版社:早川書房
- 発売日:2015/08/21
- メディア:文庫
- 目次:九尾の猫 / 解説「もう1つの傑作」飯城 勇三

アタシと私
- 著者:中山 美穂
- 出版社:幻冬舎
- 発売日:1997/11/01
- メディア:単行本
- 内容:何が欲しくて何が幸せか、これを解くには自分自身を解くしかなかった。それを解くには私の泣かない心に寄り添って付き合ってくれる誰かが必要だった。いつも目覚める時にはあなたがいて欲しい…中山美穂の初めての微小説

All Born Screaming
- Artist: St. Vincent
- Label: Virgin Records Us
- Date: 2024/04/26
- Media: Audio CD
- Songs: Hell Is Near / Reckless / Broken Man / Flea / Big Time Nothing / Violent Times / The Power's Out / Sweetest Fruit / So Many Planets / All Born Screaming

三行怪々
- 著者:大濱 普美子
- 出版社:河出書房新社
- 発売日:2024/07/29
- メディア:単行本
- 内容:「百文字病」 にかかった著者が延々と錬成したのは200篇の「三行」幻想譚。短くも不穏で深遠、魅惑のショートショート集が誕生

Caprisongs
- Artist: FKA Twigs
- Label: Young
- Date: 2022/01/28
- Media: Audio CD
- Songs: Ride The Dragon / Honda / Meta Angel / Tears In The Club / Oh My Love / Pamplemousse / Caprisongs Interlude / Lightbeamers / Papi Bones / Which Way / Jealousy / Careless / Minds Of Men / Track Girl Interlude / Darjeeling / Christi Interlude / Thank You Song