◎ ONAIDA(No Format!)Natascha Rogersオランダ生まれのピアニスト、打楽器奏者ナターシャ・ロジャース(ピアノ、ヴォーカル)の3rdアルバム。ヨルバ族の精霊、アフロ・キューバンのリズム、ネイティヴ・アメリカンの血筋、ジョイ・ハルジョ(Joy Harjo)から影響を受けたという英・スペイン・ヨルバ語の歌詞が入り混じった極上の上澄みスープ。3人の卓越したロングボーダーがダカール、パリ、リスボンの街を颯爽と走りながら優雅に踊る
〈O Baba〉のMVは 「活気に満ちた3都市の頌歌(ode)、魅力的な風景と文化の多様性を紹介する観光局のPVのようである」(ライヴ・ヴァージョンの
〈O Baba〉では左手でピアノを弾き、同時に右手でボンゴを叩き、両手でクラッピングしている)。英放浪SSWピアース・ファッシーニ(Piers Faccini)とデュエットした〈The West〉を含む全12曲・38分。デジパック仕様、4つ折りポスター付き。
◎ I GOT HEAVEN*(Epitaph)Mannequin Pussyマネキン・プッシーは2010年、米ペンシルヴァニア・フィラデルフィアで結成された男女混成(女3・男1)のライオット・ガルーなパンク・バンド。Marisa Dabice(ヴォーカル、ギター)、Kaleen Reading(ドラムス)、Colins Regisford(ベース、ヴォーカル)、新加入したMaxine Steen(ギター)の4人組。ライヴではマルチ奏者Carolyn Haynesギターやキーボードなどでサポートしている。ノイジーなのにメロディアス。エモーショナルでコケティッシュなマリサ・ダビースが大声で吠えて深く咬む
〈Loud Bark〉、コリンズ・レジスフォードの激情パンク〈OK? OK! OK? OK!〉、彼女の母親に捧げた〈Of Her〉など、全10曲・30分。20年代にタイムスリップした 「ふてほど」 なHole(Courtney Love)みたいだ。見開き三面デジパック仕様。インナーに記載されている歌詞は判読するのが難しい。
◎ THE COLLECTIVE*(Matador)Kim Gordon元夫(Thurston Moore)の浮気を決して赦さず離婚して、バンド(Sonic Youth)を活動停止にまで追い込んだキム姐さんの2ndアルバム。
〈Bye Bye〉はトラップ・ビート~インダストリアル・ノイズ~ラップ(レッチリ・フリーの娘クララ・バルザリが監督したMVには愛娘ココも出演している)。〈The Candy House〉はジェニファー・イーガンの同名小説からの着想したという。〈It's Dark Inside〉ではJulie Cafritz(Free Kitten)が在籍したバンド名 「Pussy Galore」 を叫び、「Pussy pussy pussy!」 と連呼する。〈Tree House〉はマルグリット・デュラスの
『愛人 ラマン』に影響されたという。Stereolabの
《Sound-Dust》(Duophonic2001)に似ていなくもないピンクのアルバム・カヴァは一見何の変哲もないように思われるが、ツイッグ・ハーパー(Twig Harper)はスマホを掲げて遠景を撮 っている写真を一体どうやって撮影したのかしら。全11曲・41分。4つ折りポスター付き。
◎ CELEBRATE(Heavenly)Halo MaudHalo Maud(Maud Nadal)はMM誌ではハロー・モード、タワレコではヘイロー・モードと表記されていたけれど、フレンチSSWなのでアロー・モードが正しい。彼女の魅力は可愛らしいソプラノ・ヴォイスと60年代のヴィンテージ・ギター(Silvertone)によるサイケデリック色の濃いドリーム ・ポップ。「彼のバンド、ディアフーフ(Deerhoof)との出会いは私の人生で最も大きな音楽的衝撃の1つだった」 と語っているように、2ndアルバムはGreg Saunier(ドラムス)と4曲を共作・共同プロデュース。〈You Float〉ではデュエットしている。タルコフスキーの映画
「ストーカー」(Stalker 1979)から着想を得たという7拍子(サビ)の
〈Terres Infinies〉は1stアルバム
《Je Suis Une Île》(2020)に収録された
〈Du Pouvoir〉の印象的なコーラスを自ら引用している。仏SSWフラヴィアン・ベルジェ(Flavien Berger)とカヴァしたFred Frith(Genevieve Letarte & Rene Lussier)の〈Iceberg〉など、全12曲・40分。見開き紙ジャケ仕様、4つ折りの歌詞カード付き。
◎ IF I DON'T MAKE IT, I LOVE U(Bison)Still House PlantsStill House Plants(SHP)は2015年、英グラスゴー美術学校で出会った3人、Jess Hickie -Kallenbach(ヴォーカル)、David Kennedy(ドラムス) 、Finlay Clark(ギター)が結成したエクスペリメンタル系のポスト・ロック・バンド。3rdアルバムはスネア、バスドラ、ハイハットだけのドラムス、胸に抱えた左利きストラトキャスター、そして性別を超えたヒッキー・カレンバックのソウルフルなヴォーカルに圧倒される(メンバーの写真を見た時には眼鏡とポニーテールの女性が歌っているとは思いもしなかった)。どこまでが決め事(ルーティン)で、どこからが即興(アドリブ)なのか分からないほど息の合った緩急自在でスリリングな展開に息を飲む。2/3分割された画面の左は強風に靡く青いパーカーを羽織 った人物、右1/3に走る車窓から撮った風景が下から上に縦スクロールする緊張感を孕むMVも強烈な
〈M M M〉を含む全11曲・46分。オレンジ色のレヴァを押すと、CD盤がスライドするトリガー・ケース
(ejector e-slimcase)仕様の限定CD。
◎ HERE IN THE PITCH*(City Slang)Jessica Pratt米カリフォルニア生まれのジェシカ・プラットの4thアルバムは60年代の 「LAのヒッピー時代の終焉」 にインスパイアされている。ハッピーで愉しい
「夢のカリフォルニア」 にならなかったのは 「ダークサイドを象徴する人物に取り憑かれた」 結果だという。「あなたが歌いたいと思っていること、それは知っている曲なのです」 というレナード・コーエンの言葉をインナーに引用しているように、どこかで聴いたことのあるような妖しいヴォーカルと懐かしいメロディに幻惑される 「催眠的フォーク」(hypnagogic folk)集。Ryley Walker(ギタ ー)が参加した〈Life Is〉、米SSWケイト・ボリンジャー(Kate Bollinger)が撮ったMVも印象深い
〈World On A String〉、ボサノヴァ風の〈Get Your Head Out〉、共同プロデュースしたAl Carlson(ピアノ)の伴奏で歌う〈Empires Never Know〉など、全9曲・27分。見開き紙ジャケ仕様、歌詞は無記載。
◎ LIVES OUTGROWN*(Domino)Beth Gibbons完成するまでに10年以上の歳月を要したというベス・ギボンズ(Portishead)の1stソロ・アルバムはJames Ford(Simian Mobile Disco)との共同プロデュース。暗鬱で耽美的なトリップ・ホップ色は払拭されているが、「最愛の人、人間関係、健康状態、月経(排卵)」 など、失ったもの、決して巻き戻せない死へ至る時間の流れに対峙する決意はレアメタルのように重い。Lee Harris(Talk Talk)のドラムスとパーカッション、Raven Bushのヴィオラとヴ ァイオリンなど、アクースティック・ギターと弦楽器によるフォーク・ミュージックは 「森の奥深くにある廃品集積場に偶然出食わしたような、より密生で、騒々しく、探索的な感じがする」 と評される。老成化したKate Bushのような
〈Floating On A Moment〉、「私たちは皆んな、これから何が起こるか知っている」 と歌う中近東風5拍子の〈Rewind〉 、生命のファンファーレが力強く鳴り響く〈Beyond The Sun〉など、全10曲・46分。歌詞ブックレット(16頁)付き。ハードカヴァ仕様の
「デラックス・エディション」 もある。
◎ Amama*(Crumb)CrumbNYブルックリンを拠点に活動する4人組クラム(Crumb)はタフツ大学で知り合ったLila Ramani(ヴォーカル、ギター、シンセ、キーボード)、Jesse Brotter(ベース)、 Bri Aronow(シンセ、キーボード、アルトサックス)、Jonathan Gilad(ドラムス)によるサイケデリック、ドリーム・ポップ・バンドだ。3rdアルバムは 「捕らえられた虫と捕らえられた感情への催眠的な賛歌」
〈The Bug〉、祖母のアカペラ(マラヤーラム語)をオープニングでサンプリングした回文タイトルの
〈Amama〉、ツアー用のバンに轢かれた亀サムへの鎮魂歌
〈Crushxd〉など、全12曲・35分。スリップケース仕様、歌詞は無記載。「大西洋を横断するフライト中に大麻入りのグミを食べる;メロディアスなサイケデリック・ロック;プールで自堕落に過ごす日々;瑞々しい西瓜の一切れを囓る;オープンカー(convertible)で長距離ドライヴすること」
(Pitchfork RIYL)。
「気に入ったら聴いてね」 を参照してね。
◎ BRAT*(Atlantic)Charli XCX「ちょっとハチャメチャで、パーティ好きで、時々バカなことを言う女の子。気分は良いし落ち込むこともあるけど、パーティで吹っ切る。真面目で、ぶっきらぼうで、少し気紛れで、バカなこともやらかす‥‥それがブラット」(Charli XCX)。異常気象の今夏は暑く長かったが、「ブラット・サマー」
(Brat Summer)は短命だった。彼女がカマラ・ハリスを 「brat」 と呼んだことで終焉したのだから。それでもアルバムのカヴァを彩るライムグリーンのミームは拡散された。6thアルバムはA. G. Cookがプロデュースしていることもあってか、Hydの1stアルバム
《Clearing》(PC Music 2023)のメジャー・アップデート版のように聴こえなくもない。4カ月後にリリースしたリミックス・アルバム
《Brat And It's Completely Different But Also Still Brat》はBillie Eilishとコラボした
〈Guess〉など3曲を追加した《Brat》を同梱した2CD仕様、全34曲・98分。タイトル、アーティスト、歌詞、レーベルなど、バーコード以外の全てが(横尾忠則の
「アート書評」 みたいに)反転した鏡文字にな っている。「鏡の国のアリス」 みたいな 「悪ガキの秋」 である。
◎ TRAGO(Sesc)Tulipa Ruiz, Rica Amabis, Alexandre Orion, Gustavo Ruizトゥリッパ・ルイス(Tulipa Ruiz)が街中で録画して、SNSで共有したループ映像をヒカ・アマビス(Rica Amabis)がプログラミングとサンプリングに変換して、アレシャンドリ・オリオン(Alexandre Orion)がパーカッション(MPC)を加え、弟のグスタヴォ・ルイス(Gustavo Ruiz)がギター、ベース、シンセを録音。トゥリッパ(ヴォーカル)が歌詞を書いたという。Antonio Loureiro(ヴィブラフォン)、Yaniel Matos(チェロ)、Sérgio Machado(ドラムス)が参加した
〈Porvir〉、2023年6月に亡くなったJoão Donatoがエレピを弾いた〈Fumante padrão〉、Rodrigo Brandao(Gorila Urbano)がラップする〈Trago〉など、全8曲・26分。歌詞、トゥリッパの自筆イラストやヴィデオ画像などを掲載したハードカヴァ(全52頁)にはデジタルDLやサブスク配信、無料視聴(bandcampやYouTube)では得られないフィジカル・パッケージの重みと手触りと眼福がある。
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ポスト・コロナ時代になっても、終わらない戦争と円安などで再々値上げラッシュの2024年。余りの高値に呆れて、中古CDを購入したことも一度や二度ではない。「ブラット・サマ ー」(Brat Summer)や 「猫好きの子なし女性」(Childless cat ladies)の援護射撃も虚しく、「ロシア疑惑」 の釈明で 「ロシアではなかったという理由は見当たらない」 と、LOWのアルバム・タイトルみたいに二重否定(Double Negative)した元大統領が返り咲いてしまった。
直接選挙制の危うさを肌身に感じてゾっとする(日本は間接選挙制で良かった?)。パリ五輪閉会式に降臨したアンジェル(Angele)に魅惑されて、
《Nonante-Cinq》(Angele VL 2021) を入手し、
「悪魔ダンス」 にハマった。フーベル(Rubel)の3rdアルバム
《As Palavras Vol. 1 & 2》(Mr Bongo 2023)に収録された〈Torto Arado〉の原作、イタマール・ヴィエイラ・ジュニオールの同名小説
『曲がった鋤』(2018)を読んでフーベルって良い奴じゃんと見直したり。3枚組デラックス・エディション(インストCD、Blu-ray)を購入したThe Cureの
《Songs Of A Lost World》、2025年2月にフィジカル・リリース(LP・CD)されるCindy Leeの
《Diamond Jubilee》を入れられなかったのは残念。
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rewind 2024 / 23 / 22 / 21 / 20 / 19 / 18 / 17 / 16 / 15 / 14 / 13 / 12 / 11 / 10 / 09 / 08 / 07 / 06 / 05 / 04 / 03 / 02 / 01 / 00 / 1999 / 98 / 97 / 96 / 95 / 94 / 93 / 92 / 91 / 90 / 89 / 88 / sknynx 1252
BRAT
- Artist: Charli XCX
- Label: Atlantic
- Date: 2024/06/07
- Media: Audio CD
- Songs: 360 / Club Classics / Sympathy Is A Knife / I Might Say Something Stupid / Talk Talk / Von Dutch / Everything Is Romantic / Rewind / So I / Girl, So Confusing / Apple / B2B / Mean Girls / I Think About It All The Time / 365










































