2025年01月06日

FAVORITE BOOKS 25

  • みけちゃん永遠物語(小学館 2025)村上 しいこ500


  • 1999年秋、アパート6階の部屋に迷い込んで来た三毛猫(美毛)ちゃん。猫の写真コンテストへ応募してカレンダーに採用され、2021年8月、古民家で撮影した家族写真もカレンダーになった。2023年11月、インスタで投稿した動画を見た編集者からメールが来て、フォトエッセイを出すことに。猫好き児童文学作家(かあちゃん)と三毛猫(みけちゃん)の四半世紀に渡る共生エッセイは語尾が 「〜にゃわ」 「〜やん」 「〜たん」 「〜やわ」 など、猫語なのか、三重弁なのか分からないネコとヒト(著者)との濃密な会話が愉しい。カラー口絵(8頁)、白黒写真も本文に多数レイアウト



  • 夜廻り猫 11(講談社 2024)深谷 かほる499


  • 2018年、台北国際ブックフェアに招待された作者はサイン会の最後列に並んでいた大塊文化出版会長と知り会う。2023年、ライヴペインティングの仕事を受けて 「謝謝台湾」(口絵)を描く。12月の台湾は零度近い極寒。1日の仕事を終えてホテルに帰ろうとすると、「アトリエの前を行き交う人たちの中にじっと立っている人」 がいた。『夜廻り猫 1』を持って待 っていた女性に、なぜサイン出来なかったのかと悔やむ(あとがき)。表紙には空中浮揚する丸い岩盤、赤い自販機の下を覗くワカル、上から見下ろす遠藤平蔵と重郎、単行本を片手に雛菊を見つめる女性が描かれている



  • 読書と暴動(ソウ・スウィート・パブリッシング 2024)ナージャ・トロコンニコワ498


  • フェミニスト・パンク集団プッシー・ライオットは2012年モスクワの救世主ハリストス大聖堂でゲリラ・パフォーマンスを行い、フーリガンの罪で、2年間の投獄を強いられた。創立メンバーのアナーキスト、反権威主義者、反プーチン・反トランプのアクティビスト、ナージャ・トロコンニコワはミシェル・フーコー、マイケル・スタイプ、フリーダ・カーロ 、バーニー・サンダース、ジャン=リュック・ゴダール、パブロ・ピカソ、ドストエフスキー、マンデリシュターム、ノーム・チョムスキー、アーシュラ・K=グウィンなどのエピグラフと 「10のルール」 を掲げて、読者を挑発するのだ



  • 黒猫を飼い始めた(講談社 2025)講談社MRC編集部497


  • 会員制読書クラブMRC(Mephisto Readers Club)で公開された26篇を収録したショート・ショート第1弾。作家にはタイトルの通り 「黒猫を飼い始めた」 という一文で書き始めるルールが課せられている。"謎を愛する本好きのための" MRCらしくミステリ色が濃いが、SFやホラーも散見される。黒猫ではなかったり、そもそも猫でなかったり、実態のないメタフ ァーだったりする。ジーン・ウルフの 「キティ」 みたいな 「ミミのお食事」(真下みこと)は黒いユーモアだが、宮部みゆきの『火車』みたいな 「ササミ」(原田ひ香)は心底怖い。表紙を飾るキャラは黒猫ダニットにゃん



  • 族長の秋(新潮社 2025)ガブリエル・ガルシア=マルケス 496


  • ある南米独裁者の物語は章立てのない空白で、6つのパートに分かれている。いずれも大統領の死から始まり、改行なし、「 」 なしの会話、誰とも知れない複数の話者によって語られる。名無しの大統領(閣下)、娼婦の母親ベンディシオン・アルバラド、影武者パトリシオ・アラゴネス、美人コンテスト優勝者マヌエラ・サンチェス、腹心ロドリゴ・デ=アラギル将軍 、修練女の正妻レティシア・ナサレノ、息子エマヌエル、暗殺者ホセ・イグナシオ・サエンス=デ=ラ=バラ‥‥筒井康隆は『百年の孤独』の解説で 「読むべきである。読まねばならぬ。読みなさい。読め」 と力説



  • 人形歌集 舟もしくは骨(ステュディオ・パラボリカ 2024)川野 芽生 / 中川 多理495


  • 『羽あるいは骨』『骨ならびにボネ』に続く歌人と人形作家のコラボ第3集。「墓もしくは白堊」 は 「白堊の肖像シリーズ」 と 「コトリ」 をモチーフにした17首。「舟もしくは骨」 は三島由紀夫の 「癩王のテラス」 、アントナン・アルトーの 「ヘリオガバルスあるいは戴冠せるアナーキスト」 、澁澤龍彦の 「高丘親王航海記」 に触発された短歌(14首)を収録している。第1・2集との大きな違いは、もの哀しげで夢を見ているように微睡んでいる人形たち(21点)がカラーで掲載されていること。耽美的で退廃的、妖しく艶かしい肢体が迫って来る。〈うつくしき裾を広げてゐることを(少女らよ)永遠の飛翔と思へ〉



  • ザ・ルーム・ネクスト・ドア(早川書房 2025)シーグリッド・ヌーネス494


  • 入院している末期癌の友人を見舞った中年作家(わたし)は彼女の願いを聞き入れて、ニューイングランドの借家で同居することにした。いつ死ぬのかは安楽死するための薬を持っている友人の意志に委ねられている。気候変動による世界の終末を予告する講演を大学で行なった元恋人、宿泊先のホスト、隣人親子との会話、保護猫の身の上話、ミステリ小説や映画のストーリー 、作家の言葉を引用して、老いや死、孤独に苦悩する他者への共感を育む。原題はシモーヌ・ヴェイユの言葉 「あなたはどんな思いをしているの?」。邦題はペドロ・アルモドバルの映画タイトルに準じている



  • わたしたちが火の中で失くしたもの(河出書房新社 2018)マリアーナ・エンリケス493


  • アルゼンチン・ホラー・プリンセスの第4短篇集。父方の祖父母から相続したコンスティトゥシオン地区の一戸建てに住むマミ(わたし)の前からホームレス母子が姿を消す 「汚い子」。父親の市議会議員選挙中、サナガスタの別荘へ滞在した一家のフロレンシアと妹ラリ、親友のロシオが小さなホテルに忍び込む 「オステリア」。左腕が欠損している友人アデーラ、兄パブロ、「わたし」 が幽霊屋敷に侵入する 「アデーラの家」 など12篇を収録。シルビーナが 「燃える女たち」 を調査する表題作は米スローコア・バンドLOWのアルバム《Things We Lost In The Fire》(2001)から採られた



  • ジュリアン・バトラーの真実の生涯(河出書房新社 2023)川本 直492


  • 祖父の死後、NYクイーンズ区からニュー・ハンプシャーの男子校フィリ ップス・エクスター・アカデミーに転校したジョージ・ジョンは 「男の娘」 ジュリアン・バトラーと寮で同室になる。パートナーとなったジョージ(私)は作家ジュリアンのゴースト・ライターとして生きる。ジュリアンはスキャンダラスな 「二十世紀のオスカー・ワイルド」、ジョージは覆面作家アンソニー・アンダーソンとなる。死後にジョン=アンダーソン、バトラー=アンダーソンの共作だったことを公表して、回想録を出版。川本直の 「ジュリアン・バトラーを求めて」 を併録した「架空の作家の伝記」



  • あの素晴しい日々(百年舎 2024)加藤 和彦 / 前田 祥丈491


  • ドキュメント映画 「トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代」(2024)の公開に合わせて復刊された。『エゴ 加藤和彦、加藤和彦を語る』(スペースシャワーブックス 2013)を改題した再編集本。子供時代、ザ ・フォーク・クルセダーズ、サディスティック・ミカ・バンド、「ヨーロッパ三部作」、ソロ活動、音楽・人生観などを忌憚なく語るロング・インタヴュー(1993)。旧版に掲載していたディスコグラフィーや未公開写真、付録CD(未発表ライヴ)が割愛されたのは残念。「文中注釈」 も坂本龍一や椎名誠の新刊のように、本文下に記載して欲しかった



  • 続 失踪願望。 さらば友よ編(集英社 2024)椎名 誠490


  • ウェブ・マガジン 「学芸の森」 に連載中の 「日記」(2022・7~2023・6)を纏めた続編。『失踪願望。』(2023)の白眉は自宅で意識を失 って緊急搬送された 「新型コロナ感染記」 だったが、続編の目玉は書き下ろし 「さらば友よ!」(60頁)である。2歳年下の盟友・目黒考二の追悼エッセイかと思いきや、マゼラン海峡への旅、九死に一生を得た交通事故、封印していた 「セクスアリス」、神社の人妻との爛れた情事、1カ月の失踪(箱根・芦ノ湖の酒屋で住み込みバイト)など、「本の雑誌」 に連載した『哀愁の町に何が降るというのだ。』の予告編でしょうか?



  • Y字路はなぜ生まれるのか?(晶文社 2024)重永 瞬489


  • 「Y字路が好き」 な京大院生(地理学専修)による 「路上観察と地形散歩」。「路上・地図・表象の目」 という視点でY字路の謎を解く。Y字路の構成要素(表層・角オブジェ・残余地・角度)。形成環境による分類(街道系・地形系・開発系・グリッド系)。流行歌・マンガ・アニメ・絵画(横尾忠則)などからY字路のイメージを探り、京都・吉田、東京・渋谷、宮崎の 「Y字路から都市を読む」。口絵12頁、写真、図版も豊富。表紙は東京都豊島区富士見坂・日無坂(良いY字路には猫がいる)。「下町生まれの謎の生き物」 ジローの一言ガイドも愉しい



  • あしたのあさは星の上(Pヴァイン 2017)石森 章太郎488


  • 50年ぶりに復刻された絵本(ele-king books)。舞台はアメリカ南部の町。黒人農夫(チョコレートじいや)が主人の息子(ぼうや)に語るホラ話。白人の金髪を食べる 「ぼうしが空をとんできた」。太陽を盗ろうとした青年が炎に焼かれて黒人になる 「よるの色ひるの色」。裏の丘に降りて来て、鉄の玉を埋めた 「空とぶえんばん」。太陽が爆発する1カ月前に玉蜀黍畑から 「ねずみがいなくなった」。「あしたのあさは星の上」 は太陽爆発の10時間前、空飛ぶ円盤から降りて来た異星人が住民の半数を救出しようとするが‥‥



  • 牡猫ムルの人生観(東京創元社 2024)E・T・A・ホフマン487


  • 漱石の 「吾輩」 は酔っ払って溺死してしまった。ホフマンの 「わが輩」 は川で溺れかけているところを奇術師マイスター・アブラハムに救出される。屋根裏部屋で詩作に勤しむほど高い知性と教養のある灰色猫は名無し猫よりも仔猫ガミッチ(IQ160)の好敵手かもしれない。手近にあった本の頁を破いて吸取紙や下敷きとして原稿に挿んだまま、編集人ホフマンが出版社に渡して印刷されたので、「楽長ヨハネス・クライスラーの伝記」(反故)と 「ムルの自伝」(ムルのつづき)が混在する二重構造の物語(二重小説)になってしまったという設定が面白い新訳版



  • 本日、東京ラプソディ(毎日新聞出版 2024)中野 翠486


  • 「サンデー毎日」 に連載中のコラムは表題を変えながら40年。毎年12月に出版される単行本で往く年を回顧するように読んで来た。ここ数年は加齢によるものなのか、俎板の包丁捌きも活気なく、往年の切れ味も鈍刀に。見開き2頁から1頁に半減したことで、生煮えの消化不良状態に陥 ってしまった。前半の 「徒然雑記帳」 は新聞やTV、映画、本、旅行、私的な出来事など。後半は 「ゆうゆう」(主婦の友社)と 「ku:nel」(マガジンハウス)に連載された 「シネマ・コラム」 で、お茶を濁している。そろそろ潮時というか、週刊誌自体の存続意義も問われているのでは?



  • 白猫、黒犬(集英社 2024)ケリー・リンク485


  • 童話や民話、伝承を現代風に改変したホラー短篇集。望むものは何でも手に入れられるほど裕福な男(70代)は老いの不安から、前妻の産んだ3人の息子を探索の旅に出して、遠ざけることにした。最も小さくて愛らしい犬、結婚指輪を通すことが出来るほど極薄の生地で仕立てた引退パーティ ー用のスーツ、一番美しくて一番賢い花嫁を探して来た者を後継者にするという 「白猫の離婚」 は17世紀フランスの風刺童話『白猫』と同じく、三男は白猫の首を刎ねて美女を出現させるが、彼女が結婚した父親の首を斬り落とす結末は血腥い。「装画」 はヒグチユウコが描いている



  • ネコ学(築地書館 2024)クレア・ベサント484


  • 英慈善団体 「インターナショナル・キャットケア」 の最高責任者を28年に渡って務めた著者による 「あなたの猫と最高のコミュニケーションをとる方法」。『ネコ学入門』(2014)の改訂版。20年余り後の出版なので、より具体的な猫と人間のコミュニケーションに重点を置き、猫がストレスなく快適に、幸せで健康的に暮らせる生活を模索している。常に猫たちの身になって、彼らが何を感じて何を考えているかを表情や仕草、鳴き声、行動から推察。猫を飼っている人だけでなく、これから猫を飼いたいと思っている人への有益なアドヴァイスが満載



  • 午後の最後の芝生(スイッチ・パブリッシング 2024)村上 春樹 / 安西 水丸(絵)483


  • 『中国行きのスロウ・ボート』(1983)所収の短篇に挿絵(20点)を添えた単行本。大学生の 「僕」 が最後の芝刈りバイトへ行く。昼食休憩を挟んだ4時間ほどの作業の間に 「僕」 が飲食したのはアイスコ ーヒー、女主人が用意してくれたサンドイッチとオレンジジュースとウォッカ・トニ ック。仕事の後に立ち寄ったドライヴ・インで注文したコカ・コーラとスパゲッティ。車中で眩暈を起こしたのは熱中症と思われるが、最大の謎は女主人が案内した2階の部屋。学生らしい不在の娘と一週間前に別れた彼女の虚ろな面影が 「僕」 の脳裡で重なる



  • 一年前の猫(ナナロク社 2024)近藤 聡乃482


  • NY在住のマンガ家・アーティストによるエッセイ8篇に、カラー・イラスト25点を挿んだ文庫サイズのハードカヴァ上製本(巻頭に2つ折り、巻末に4つ折り蛇腹の別丁扉が付いている)。アサリ(もどき)のスパゲッテ ィ、黒猫クレオとグレーのポンズ母娘、手作り培養ヨーグルト、こっそり縫いぐるみ(アライグマ)を可愛がって 「クルクルニャ?」 と鳴くクレオ、空き地に出来た公園の円柱、夢の中で○○ちゃんが飼っている猫 「あんず」、3歳になったポンズの誕生日を忘れてしまう 「私」 など。ふっくらした猫たちがフワフワと浮游するイラストも魅力的にゃん



  • 三行怪々(河出書房新社 2024)大濱 普美子481


  • 嵐山光三郎が 「私のベスト3」(本の雑誌 2025年1月号)に挙げていた怪怪本。北野勇作の 「100字シリーズ」 を読んで、「百文字病」 の変異株 「三行」(約60字)に感染した作家による超ショート・ショート200篇。三行目がオチになるのは川柳に似ているかもしれない。「猫用の出入口を、扉に取り付けた。猫がそこから出ると、三本足の獣が列を作って後を追う。最後の一匹が、行儀よく扉を閉めていった」 というように怪猫度(11篇)も高い。こんな茶目っ気が 「たけこのぞう」 の作者にあったとは驚きだ。チューリップと猫と骨が 「川の字」 に並ぶ表紙も三行怪々


                        *


    ラベル:Favorites books
    posted by sknys at 00:02| Comment(0) | f a v o r i t e s | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
    この記事へのコメント
    コメントを書く
    コチラをクリックしてください