◎ TEMPO DE VENDAVAL(Independente)Naraブラジル・ミナス出身のSSW、フルート奏者ナラ・ピニェイロ(Nara Pinheiro)の1stアルバム。Antonio Loureiro(ドラムス、ピアノ、シンセ、ギター、ベース)のプロデュースで、ナラは大半の5曲をMarcio Guelber(7弦ギター、アコーディオン)と共作。女性版アレシャンドリ・アンドレス(Alexandre Andres)という趣きもある。フルート、ピアノ、ギター、コントラバス(Camila Rocha)というシンプルな編成ながら、Antonio Loureiroのプロダクションとアレンジが光る。5拍子の〈Tempo de Vendaval〉、Antonio とTiago Amudが共作した〈Parto〉、インスト曲〈Ilusao〉など、全9曲・36分。デジパック仕様、歌詞ブックレット(16頁)付き。ポルトガル領・アゾレス諸島オルタ生まれのジャズ ・シンガー、マヌエル・リニャレス(Manuel Linhares)の
《Suspenso》(2022)やベラルーシ生まれのピアニスト、カテリナ・ルドコヴァ(Katerina L'dokova)の
《Mova Dreva》(2021)など、アントニオ・ロウレイロのプロデュースしたアルバムにハズレなし。
◎ CLEARING(PC Music 2022)Hydハイド(Hayden Dunham)は米テキサス・オースティン生まれのパーフォーマンス・アーティスト、デザイナー、SSW。英プロデューサのA. G. Cook、Sophieと結成したプロジェクトQTのシングル
〈Hey QT〉(2015)で、仮想キャラのポップ・シンガーQT
(Quinn Thomas)(実際に歌っているのはHarriet Pittard)を演じて、半架空のエナジードリンク(DrinkQT)をプロモートした。1stアルバムはA. G. Cook、Sophie(2021年1月30日、アテネの自宅バルコニーから転落死した)、Easyfun、Caroline Polachek、Jónsi(Sigur Ros)などがプロデュース。エレクトロポップの
〈Fallen Angel〉、ロンドンの児童合唱団(The Capital Children's Choir)と共演した〈Oil + Honey〉、グランジっぽいファズ・ギターが暴れる〈Chlorophyll〉、「ベッドでSFの本を読んでいるのよ」(sci-fi books in bed)と歌う〈The Real You〉、Caroline Polachekと共作した〈Afar〉など、全11曲・40分。見開き紙ジャケ仕様。麗しい水中ヌード・カヴァに魅惑されて、ジャケ買いにゃん。
◎ FALSE LANKUM(Rough Trade)Lankumアイリッシュ・フォーク・バンド、ランクム(Lankum)の4thアルバム
《False Lankum》(Rough Trade 2023)は全12曲・70分。トラッド5曲、カヴァ2曲、インスト3曲を含むオリジナル5曲という構成。ダブリン出身のイアン・リンチ(Ian Lynch)、ダラグ・リンチ(Daragh Lynch)兄弟、レイディ・ピート(Radie Peat)、コーマック・マクディアーマダ(Cormac MacDiarmada)の4人組はイリアン・パイプス、コンサーテ ィーナ、ハーモニウム、ダルシマー、ハーディ・ガーディ、バヤン、オルガン、ハープなどの楽器を奏で、ポスト・ロック、エクスペリメンタル、アンビエント、ノイズなどを自家薬籠中のものとすることで、フォークに留まらないダークで不穏な音楽を創出している。3rdアルバム
《The Livelong Day》(2019)に収録されたトラッド・ソング
〈Katie Cruel〉を絶叫インダストリアル・ノイズ姫リングア・イグノタ
(Lingua Ignota)がカヴァしていることからもランクムの立ち位置が鮮明になるだろう。見開き紙ジャケ仕様、ブックレット(8頁)付き。
◎ MIRACLE-LEVEL(Joyful Noise)Deerhoof先行シングル
〈My Lovely Cat!〉は黒地に白抜きで、バンド名とタイトル、「バンド初の全日本語歌詞アルバム ”奇跡のレベル” から発売間近!」 というキャッチ・コピーとネコのイラストが描かれている。2019年12月に亡くなったリル・バブ(Lil BUB)ちゃんに捧げられているが、メンバーが作曲した時にはインターネットで有名な「永遠の子猫」のことも、飼主についても何も知らなかったという。彼女はネットの写真や動画だけでなく、映画にも主演したし、「徹子の部屋」 みたいなトーク番組の司会も務めていたし、音楽アルバムもリリースしているのに。元飼主のマイク・ブリダヴスキー(Mike Bridavsky)が録音、ミックス、マスターした《奇跡のレベル》は19作目にして、全曲スタジオ(カナダ・ウィニペグのノー ・ファン・クラブ)でレコーディングされた最初のアルバムである。全11曲・36分、デジパ ック仕様。表紙アートは写真家の杉浦邦恵。先着購入特典は
〈ボクの愛猫〉のレースカット(Lathe-Cut)7インチEPとサイン入り5連綴り歌詞カード(日本語・英対訳)だった。
◎ THE RECORD*(Interscope)BoygeniusPhoebe Bridgers、Lucy Dacus、Julien Bakerが結成したスーパー・グループ、天才少年(boygenius)の1stアルバム
《The Record》(Interscope 2023))。ワシントンDCで共演した時に、Bakerが楽屋でヘンリー・ジェームズの 「ある婦人の肖像」(The Portrait of a Lady 1881)を読んでいるDacusを見つけたことから始まったという。「天才少年」 という逆説的なバンド名には幼い頃から褒め称されて育つ少年に対する少女からの冷ややかな視線が感じられる。6曲入りEP
〈boygenius〉 のカヴァで
《Crosby, Stills & Nash》、Rolling Stone
(Feb 2023)の表紙でNirvana
(Jan 27 1994)を再現。
「インディ・ロッカーズが読むべき48冊の本」(Literary Hub)の中で、Dacusはマーク・ダニエレブスキーの
「紙葉の家」(House Of Leaves 2000)をお気に入り本に挙げている。アカペラ三重唱の〈With You Without Them〉、Bakerの
〈$20〉、Bridgersの
〈Emily I'm Sorry〉、Dacusの
〈True Blue〉など、全12曲・42分。三面見開き紙ジャケ仕様、12折り歌詞ポスター付き。
◎ RAT SAW GOD*(Dead Oceans)Wednesday米ノース・カロライナ・アッシュビルで結成された男女混成5人組の5thアルバム。「ネズミが神を見た」 というタイトルは米TVドラマ 「ヴェロニカ・マーズ」(Veronica Mars 2004 -19)の同名エピソードに由来する。現在はMargo Schultz(ベース)が抜けて4人体制になっている。Karly Hartzman(ヴォーカル、ギター)、MJ Lenderman(ギター)、Alan Miller(ドラムス)、Xandy Chelmis(ラップ・スティール)によるシューゲイズとカントリー・ミュージックの掛け合わせがツナマヨ、たらこパスタのような食べ合わせの妙味を生む。Karly Hartzmanの絶叫ヴォイスが爆発する8分半の長尺曲
〈Bull Believer〉、米作家リチャード・ブローティガンの詩の一節(Love’s not the way to treat a friend)を引用したという〈Formula One〉、米コミック作家リンダ・バリー(Lynda Barry)の『クラデ ィ』(Cruddy 1999)からイメージを借りたという
〈Quarry〉など、全10曲・37分。見開き三面紙ジャケ仕様、歌詞はインナーに記載されている。
◎ GIRL WITH FISH(Saddle Creek)feeble little horseフィーブル・リトル・ホース(feeble little horse)は2021年、米ペンシルヴァニア・ピッツバーグで結成したデュオ、Seb KinslerとRyan Walchonski(ギター、ヴォーカル)に、Jake Kelley(ドラムス)とLydia Slocum(ヴォーカル)が加わった4人組のノイズ・ポップ・バンド。「Alex G、ドリームポップ実験主義者のSweet Tripと地元の爆音ギター・バンドへのメンバーたちの愛から生まれた《Hayday》は20代の実存的な恐怖を描いた容赦なく意図的に混沌としたドキュメントである」
(Pitchfork)。1stアルバムの再発盤
《Hayday》(2022)は〈Dog Song 2〉〈Termites (Full Body 2 Remix)〉の2曲を追加収録。2ndアルバムのタイトル 「魚を持つ少女」 は美術館で想像した絵画の題名について、バンド内でウケたジョークに由来しているという。シューゲイズとギターの不協和音。「ノイズ・ロックの感触とDIY志向のポップとの融合、異なる感性が興味深い方法で衝突する」
(NME)。ライヴはLydia Slocumがベースを弾いているが、アルバムではSeb Kinslerがベースを兼任。
◎ SUELTA(Halley)Meritxell Neddermannスペイン・カタルーニャ出身のSSWメリチェル・ネッデルマン(Meritxell Neddermann)の2ndアルバム。
《In the Backyard Of The Castle》(2020)はロング・ヴァージョンをカップリングした全19曲・82分(2CD)だったが、新作は全10曲・35分。Thom Yorke (Radiohead)にインスピレーションを得たというタイトル曲
〈Suelta〉は多重ヴォーカルとシンセのカットアップ、英ロック・バンド、スーパートランプ(Supertramp)にオマージュした
〈Restaurante en el mar〉は80年代ロック風、オートチューンを使った〈Si ets tu〉はエレクトロニカ、キーボード・アレンジの
〈T'esperaré una mica más〉は70年代の米ポップ・ソウルを想わせる。〈No me hablas〉〈Deixa'm veure't〉のようなピアノの弾き語りもある。1stアルバムで顕著だった変化に富んだ楽曲も確実に深化している。ウ ェブ画像からは分かり難いが、アルバム・カヴァの 「SUELTA」 という大きなタイトル(白枠文字)はエンボス加工されている。デジパック仕様、歌詞ブックレット(16頁)付き。
◎ SOFTSCARS(Bayonet / Ninja Tune)Yeuleユール(Yeule)はシンガポール生まれのSSWナット・チミエル(Nat Ćmie)のプロジェクトで、ステージ・ネームは 「ファイナル・ファンタジー」(FFXIII-2)に登場する少女パドラ=ヌス・ユール(Paddra Nsu-Yeul)に由来する。3rdアルバム・タイトルの 「柔らかい傷」(softscars) とは時間を経て、傷が癒えても残る痕跡(トラウマ)の比喩だという。7曲をキン・レオン(Kin Leonn)、3曲をMura Masaと共同プロデュースしている。パンク 〜ノイズ・ポップの〈X W X〉、Mura Masaとプロデュースした〈Softscars〉、シューゲイズ〜ドリーム・ポップの
〈Dazies〉、岩井俊二の長編アニメ映画
「花とアリス殺人事件」(2015)のサントラ、ヘクとパスカル(Hec to Pascal)のインスト・カヴァ
〈Fish in the Pool〉を含む全12曲・40分。怒濤のノイズ音像に描かれた可愛いヴォイスがアルバムをポ ップに染めている。スーパー・ジュエル・ボックス仕様、歌詞ブックレット(8頁)入り。
◎ MADRES(Ninja Tune)Sofia Kourtesisペルー・リマ生まれで、独ベルリンを拠点に活動するDJ・プロデューサ、ソフィア・クルテシス(Sofia Kourtesis)の1stアルバム。軽快なハウス・ビートに身も心も踊らされる〈Si Te Portas Bonito〉、重篤な癌に冒された母親の命を延命させた脳神経外科医ピーター・ヴ ァイコツィ(Peter Vajkoczy)に敬意を表わした〈Vajkoczy〉、低音ビートが心地よく躍動する〈Funkhaus〉、荒涼としたアンビエントに内省的なヴォーカルが重なる〈Moving Houses〉、敬愛するマヌ・チャオ(Manu Chao)に手紙を書いたことからコラボが実現したという〈Estación Esperanza〉はペルーの反同性愛者嫌悪への抗議デモ(a Peruvian anti-homophobia protest)のシュプレヒコールに合わせて 「今何時ですか、私の心は?」(¿Qué horas Son, mi corazón?)と繰り返す。〈How Music Makes You Feel Better〉という曲名の通り多幸感溢れる癒しのハウス・ミュージックになっているところは看護師見習いから転身したKelly Lee Owensにも相通じる。全10曲・49分。見開き紙ジャケ仕様。
◎ DESIRE, I WANT TO TURN INTO YOU(Perpetual Novice)Caroline Polachekキャロライン・ポラチェックはNYCマンハッタン生まれのSSW。家族と移住した東京で、幼少時(6歳まで)を暮らす。コロラド大学在学中にシンセ ・ポップ・デュオChairliftを結成した。Ramona Lisa名義で
《Arcadia》(Terrible 2014)、CEP(Caroline Elizabeth Polachek)で
《Drawing The Target Around The Arrow》(Pannonica 2017)、1stソロ・アルバム
《Pang》(Sony 2019)をリリースしている。薄汚れた地下鉄の車内で四つん這いになって進む女性の眼差しは 「欲望」 に燃えている。手前に砂漠が広がり、右端に蟻のキャラバンが進む。2ndアルバムはベルカント・オペラとラップが交錯する
〈Welcome To My Island〉、フラメンコに着想を得たという
〈Sunset〉、パウル・クレ ーの絵画を想わせる〈Crude Drawing Of An Angel〉、GrimesとDidoとコラボしたドラムンベースの〈Fly To You〉、Kate Bushの〈The Sensual World〉みたいなバグパイプが憑依したかのような〈Blood And Butter〉など、全12曲・45分。歌詞ブックレット(16頁)付き。
*
2023年も円安が進んで、皮肉な逆転現象が起きている。安価だった輸入盤が国内盤よりも高く、アナログ盤はCDよりも高騰してしまった。ファブ4の27年ぶりの新曲〈Now And Then〉もEPよりもCDの方が断然安い。Amazonも国内盤の出ている輸入盤は仕入れなかったり、デジタル配信だけだったりすることも少なくない。フィジカル・リリースが数カ月遅れという傾向も相変わらずで、年を跨いでしまうと次年度のベストに入れて良いものかどうか悩む。2022年11月に発表されたHyd(Hayden Dunham)の
《Clearing》は23年3月にフィジカル盤(LP・CD)が出た。レーベル(PC Music)が24年から新譜をリリースしない(再プレスしない?)とアナウンスした時は焦った。何とか入手して愛聴したが、同じ事情のSaultと共に泣く泣く外した。次点はMelina Moguilevsky、Magali Datzira、Karol G、Yo La Tengo、Fever Ray、Yves Tumor、James Holden、Yaeji、Silvia Perez Cruz、Squid、Leo Middea、Little Simz、Joanna Sternberg、PJ Harvey、Roisin Murphy、Blake Mills、Slowdive、Corinne Bailey Rae、Laurel Halo、Sufjan Stevensなど。
*
*
rewind 2023 / 22 / 21 / 20 / 19 / 18 / 17 / 16 / 15 / 14 / 13 / 12 / 11 / 10 / 09 / 08 / 07 / 06 / 05 / 04 / 03 / 02 / 01 / 00 / 1999 / 98 / 97 / 96 / 95 / 94 / 93 / 92 / 91 / 90 / 89 / 88 / sknynx 1180
Clearing
- Artist: Hyd
- Label: PC Music
- Date: 2022/11/11
- Media: Audio CD
- Songs: Trust / Fallen Angel / So Clear / Oil + Honey / Breaking Ground / Chlorophyll / Glass / The Real You / Bright Light / Only Living For You / Afar

Desire, I Want To Turn Into You
- Artist: Caroline Polachek
- Label: Perpetual Novice
- Date: 2023/11/03
- Media: Audio CD
- Songs: Welcome To My Island / Pretty In Possible / Bunny Is A Rider / Sunset / Crude Drawing Of An Angel / I Believe / Fly To You / Blood And Butter / Hopedrunk Everasking / Butterfly Net / Smoke / Billions







