見上げてごらん、朝のネコを(朝日新聞出版 2019)岩合 光昭 280

冷蔵庫、箪笥、塀、屋根の上。岩合さんは 「夜空の星」 ではなく、朝のネコたちを見上げる。「週刊朝日」 に連載された 「今週の猫 Iwago Cat Weekly」 の中から 「掲載号の発売日と同じ日付に撮影された写真」 を月別(4月から3月)に再編集。京都府 / 京都市 「ストライキ猫」(2017・4・3 AM8:58)、トルコ / ボスポラス海峡 「女子猫生」(2012・4・25 PM0:30)‥‥というように、全77点のネコ写真と文で構成されている。巻末に初監督映画「ねことじいちゃん」に出演した後に引き取られたキジトラ兄弟子猫「岩合さん家のタマくんトモくん」を特別収録
魔眼の匣の殺人(東京創元社 2019)今村 昌弘 279

W県の山奥にある班目機関の研究施設に辿り着いた9人の来訪者。「魔眼の匣」 に棲む天禰サキミは 「11月最後の2日間に、真雁で男女が2人ずつ死ぬ」 と予言する。好見へ通じる唯一の吊り橋が何者かによって焼き落とされ、地震による土砂崩れで雑誌記者の臼井頼太が事故死する。施設内で銃殺された2人目の犠牲者‥‥サキミの予言は成就されるのか、少女探偵・剣崎比留子と助手の葉村譲(俺)は犯行を未然に防げるのか?‥‥クローズド・サークルでも、ゾンピ集団に襲われた『屍人荘の殺人』(2017)ほどの切迫した恐怖感はない
白群(アイドルヴィレッジ 2019)カワイレナ 1st 写真集 278

LOVEReS〈ラブレス〉のメンバー5人はセーラームーン戦士や戦隊ヒ ーローみたいに1人ひとりの固有色が決まっている。「白群」(柔らかい白みを帯びた青色)というタイトルはカワイレナのカラー(青)に由来する。ブルーを基調色にしたポートレイトも爽やかで瑞々しい。青いドレス、フォーを食べるレナちゃん、白いタンクトップとショートパンツ 、セパレーツ水着、ピンク花柄ワンピース、パジャマ姿で白クマの縫いぐるみと戯れる。福田瞳が撮ったからか、露出度の高いセクシー系アイドルとは一線を劃する清楚でナチュラルな写真集
聖女の島(講談社 1994)皆川 博子 277

救いを求める手紙を読んだ修道女(マ・スール)が廃墟の島にある更生施設(軍艦島がモデル)を訪れる。桟橋で彼女の到着を待っていたのは差出人の園長(矢野藍子)だった。放火されて焼失したホームの救援に来たのだが、3人死亡して28人になったはずの不良少女たちが31人いる?‥‥修道女(わたし)と藍子(私)の2人による一人称の叙述トリック、登場人物A=Bが同一人物という仕掛け、プロローグとエピローグが円環するウロボロス構造。「綾辻・有栖川復刊セレクション」(2007)の表紙女性はサイコ・ミステリにはミスマッチ
冷たい校舎の時は止まる(講談社 2019)辻村 深月 276

辻村深月のデビュー15周年を記念した限定愛蔵版。 ノベルス版は上中下3巻本(2004)、文庫版は上下巻(2007)だったが、全1巻に合本したので京極レンガ本みたいに重く分厚いハードカヴァ仕様(二段組み 688頁)になった。装幀(坂野公一)、章扉挿絵(北見隆)、タイトル11文字が四角く括り抜かれた小窓から覗く縦箱入りで、薄青いクロス装、水色のスピン、本文も寒色系の青い文字で統一されている。新書判、文庫版、愛蔵版の3種を読み比べてみた。7年振りに再読したが、ハンディで活字の大きい文庫本が一番読みやすかった
絵本原画 ニャー ! 猫が歩く絵本の世界(青幻舎 2019)福永 275信

「同展」の図録を兼ねたネコ原画集。100%ORANEGE、町田尚子、ささめやゆき、瀬川康男、きくちちき、あきびんご、馬場のぼる、にしまきかやこ、石黒亜矢子、片岡まみこ、ハンス・フィッシャー、加藤休ミ、牧野千穂、きむらよしお、大道あや‥‥絵本作家15組の描いた27冊(約200点の原画・スケッチ・制作資料)を紹介。片観音開きページ(右頁が捲れる)、絵本にある文を外して作者や執筆者がコメントを添えるなど、斬新な工夫が凝らされている。付録「猫勢ぞろいシール」、おかざき乾じろう描き下ろしミニ絵本「ねこかしら」
小鳥たち(ステュディオ・パラボリカ 2019)山尾 悠子・中川 多理 274

幻想作家と人形作家による共著が出版された。山尾悠子の歌集『角砂糖の日』(LIBRAIRIE6 2016)の挟み込み付録品だったという掌篇 「小鳥たち」、『夜想#中川多理』(2018)に掲載された続編 「小鳥たち、その春の廃園の」、「書き下し小鳥たちの葬送」‥‥〈小鳥に変身する城館勤めの侍女たち〉のイメージを気に入った中川多理が〈物語の中の少女〉シリーズの1つとして作品化。小説と人形(写真30点)が織りなす可憐で妖しい幻想譚。今どき珍しい薄桃色の糸綴じ製本で、奥付にはミルキィ・イソベ(発行人)や今野裕一(編集)の名前もある
21匹のネコがさっくり教えるアート史(すばる舎 2019)ニア・グールド 273

古代エジプト→ビザンティン→ルネサンス→ロココ→印象派→後期印象派→点描画法→象徴主義→フォーヴィズム→キュビズム→ダダイズム→デ・ステイル→マジックリアリズム→アール・デコ→シュルレアリスム→象徴表現主義→コブラ→ポップアート→ミニマリズム→グラフティ→ヤング・ブリティッシュ・アーティストという21の芸術運動をネコたちがモデルとなって解説する美術入門書。それぞれのスタイルで描いていても、著者はシュー・ヤマモトの「ネコ名画」のように絵まで似せていないので、「原画」 を知らないと面白さが半減する
初恋まねき猫(講談社 2019)小手鞠 るい 272

春休みのスキーで骨折した高橋龍樹(中2)は自宅療養している。退屈しのぎに自殺した姉・美雨の遺した日記(詩)を読んでいると、窓の外から春風に乗って歌声が聞こえて来た。「たんぽぽ堂文具店」 の眉村しおり(小6)は古い商店街の外れの空き地で、自作した 「カバの季節」 を歌っていた。観客はブルーグレイの猫サージュだけだった。六日目の午後、龍樹が寝ている1階の窓から一匹の銀色ネコが入って来た。恋に落ちた少年はアンジュと名づけ、ネコの顔を描いた紙を首輪に結びつける。ネコが手紙を運ぶ、少年と少女の文通が始まる
かがみの孤城(ポプラ社 2017)辻村 深月 271

こころ、アキ、リオン、フウカ、マサムネ、スバル、ウレシノ‥‥7人の不登校中学生(リオンはハワイに留学)が光る鏡を通り抜けて異世界へ通うファンタジー長編。城主の狼面少女(オオカミさま)は7人の「赤ずきんちゃん」にゲームを仕掛ける。5月から来年3月末までの開城中に、"願いの部屋" の鍵を見つけた1人だけが願いを叶えられるという。リオンを除く5人も雪科第五中学校の生徒であることが分かったのに、なぜか現実の中学校では会えない。パラレル・ワールドなのか、それともタイムスリップなのか、狼面少女は正体は?
猫はしっぽでしゃべる(ナナロク社 2018)田尻 久子 270

熊本県で小さな本屋「橙書店」を営む女店主のエッセイ集。巻末に47冊の書籍リストが挙げられているが、18篇の文章は活字中毒者の書評とは異なる。本を読んで、そこから見えるもの、感じたことについて書いている。喫茶店「orange」の隣に開店した本屋なので、詩人、写真家、作家など常連客たちとの親交もある。思っていること、言いたいことを過不足なく綴る文章も上手い。一緒に本を作ろうと提案した編集者の気持ちも分かる。執筆中に熊本地震が起こり、移転を余儀なくされた。タイトルは「路地裏の猫」の一節から採られている
飛ぶ孔雀(文藝春秋 2018)山尾 悠子 269

「飛ぶ孔雀」 「不燃性について」 のニ部構成。火が燃え難くなったり石が動いて成長する異世界の物語で、前編は川中島Q庭園の茶会で娘タエが孔雀に、後編は鶏冠のある大蛇になってしまう。登場人物はK、Q、P、Hなどのイニシャルで表記されるが、スワ(ン)、サワ、セツ、フキエ、リツなどは「頭髪のない丸い頭の女たち」が温室で興じるカード・ゲームで裏返されて別キャラになったりする。KやQを翻弄する正体不明女たちの如何わしさは「仮面物語」、正十角形の修練ホテルに出現する空洞は「遠近法」の《腸詰宇宙》を髣髴させる
ボヘミニャン・ラプソディ(シンコーミュージック・エンタテイメント 2019) 268

映画 「ボヘミアン・ラプソディ」(Bohemian Rhapsody 2018)に便乗したネコ写真集。生前のフレディとインスタグラムに投稿されたネコ写真で構成されている。「フレディとねこのはなし」 ではネコの登場する場面が40カットもあるという映画やブライアン・メイに代わって、フレディが歌う〈All Dead, All Dead〉のネコ・アニメ(Queenのアルバム《News Of The World》の40周年記念として制作された)などを紹介する。フレディの口髭と同じように鼻の下が黒いネコやフレディと同じポーズを決めるネコをコレクション
ニール・ヤング 回想(河出書房新社 2019)ニール・ヤング 267

『ニール・ヤング自伝』(白夜書房 2012)に続く「回想」は愛車に纏わるエピソードを中心に綴った特別版。ステージ上での癇癪、マリファナやコカインの摂取、妻と子供たち、亡くなった友人たちへの追悼。音楽についての記述は少ないが、文中に自作曲の歌詞を多く引用。「ほとんど病気だ」 と本人が書いているほどの旧車マニアで、最終章は新たな発電システムとバイオ燃料で走る車を開発するために自ら立ち上げたリンクヴォルト(LincVolt)に割かれている。全40章の扉絵も《Storytone》(2014)のカヴァのような歴代愛車の自筆イラストで飾られている
屍人荘の殺人(東京創元社 2017)今村 昌弘 266

神紅大学映研の夏合宿に参加した学生10名、OB3名とペンション管理人。短篇映画の撮影を兼ねた肝試し、ゾンビ集団の襲来、紫湛荘で起こる連続殺人‥‥綾辻行人の「館シリーズ」のパロディかと思ったら、S県娑可安湖集団感染テロでゾンビ化したサベアロックフェスの観衆が紫湛荘を襲う「バイオハザード」みたいな設定だった。ホラーとミステリを抱き合わせた二重の密室殺人。殺人犯は人間なのか、ゾンビなのか。葉村譲(俺)の一人称視点で、屍人の餌食になった明智恭介に代わり、少女探偵・剣崎比留子が連続殺人事件を解明する
たのしい暮しの断片(平凡社 2019)金井 美恵子 / 金井 久美子 265

生活情報誌「天然生活」に連載されたエッセイ(2016~18)を中心に編まれた金井美恵子のエッセイ集。姉・久美子の作品24点(絵画、イラスト、アッセンブラージュ)も掲載された愉しい造本になっている。『待つこと、忘れること?』(2002)の続篇的な内容とのことだが、70歳を越えて正月のおせち料理を作らなくなった金井姉妹の現在の生活と過去の記憶が色鮮やかに描かれる。「猫を預かる」 「猫の毛の色」 「猫の手ざわり」 「猫のいない生活の良さについて」 など、ネコに纏わるエッセイには亡くなった愛猫トラーの絵も添えられている
血染めの部屋(筑摩書房 1999)アンジェラ・カーター 264

「青髭公」 「美女と野獣」 「赤ずきん」 「眠れる森の美女」 などをグロテスクに改変した英国女性作家の 「大人のための幻想童話」。倉橋由美子の『大人のための残酷童話』(1984)と同趣向の換骨奪胎だが、アンジェラ・カーターの方が巧緻に描写されているので、マジック・リアリズム色が濃い。大富豪の実業家の許へ嫁いだ17歳の生娘が城主の留守に 「拷問部屋」 を発見する 「血染めの部屋」。青年士官と深窓の貴婦人の恋路を飼い猫のフィガロと雌トラ猫(嫉妬深い夫の飼い猫)が協力して成就させる 「長靴をはいた猫」 など全10篇を収録している
100万分の1回のねこ(講談社 2018)江國 香織 263ほか

佐野洋子の絵本『100万回生きたねこ』(1977)に愛を込めて捧げられた短篇集。13人の作家による競作なので、書き手の本気度や力量が試される。「吾輩」 の伝統なのか、角田光代、今江祥智、唯野未歩子、綿矢りさの使い古された猫語り(擬人化した1人称)は新鮮味に欠ける。ゲームの中に転生したネコ(おれ)の視点で描く川上弘美のような捻りがないと面白くない。岩瀬成子の描く少女(姉妹)の直感的な言動は瑞々しい。この種のトリビュート本は原作者の存命中に出版されてこそ意義がある。一番嬉しいのは作者本人だと思われるから
ほんやのねこ(白泉社 2018)ヒグチユウコ 262

縫いぐるみのニャンコを主人公にした絵本シリーズ。第3集の主役は謎めいた本屋の女主人。来店した摩訶不思議な客たちとのエピソードが描かれる。遠くから来たニュータイプとトリモドキ、10人のオクトキャット 「ギ ュスターヴくん」、オカヒトデとツチグリ、ニャンコと旅のねこの飼い犬 、6匹の金魚、女の子たち(パンダとクマ)と病院の先生(犬)、ニャンコとアノマロ、こねこ(いらないねこ)、4人の紳士ネコたち、オバケにも宇宙人にも見える一つ目たち(ひとつめちゃん)‥‥本屋を訪れる客も奇妙だが、紹介される本も奇天烈
すきになったら(ブロンズ新社 2016)ヒグチユウコ 261

赤いドレスの少女とワニくんの禁断の愛を描いた絵本。「すきになったら、しりたくなる」 「すきになったら、わたしのことも、しってもらいたくなる」 という少女のモノローグで、ワニくんとの交歓が語られる。ワニくんの読んでいる本を少女も読む。少女が奏でるヴァイオリンをワニくんが聴く。ワニくんの被っている黒い山高帽を少女も被る。少女は雛菊の花冠を髪に乗せて、ワニくんの帽子にも飾る。雛菊のブーケをワニくんに贈ると、少女にもワニくんと同じような尻尾が生えて来る
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